研究課題
本研究の目的は、胸腔内でも安全に使用し得る分岐部人工気管を開発することであった。1940年代から人工気管による気道再建研究がはじまったが、現在なお臨床に安全に使い得る人工気管は世界的にも皆無である。我々は生体親和性の高いコラーゲンのコンポジットを用いて代用気管を作製し、動物実験において有用性・安全性を確認してきた。その結果2002年より京都大学医学部・福島県立医科大学倫理委員会の審査を経て、現在までにすでに20例以上の患者に自己組織再生型人工気管を使用して良好な結果を得ている。しかしながらこれらは耳鼻科領域の頸部気管の再建であるため、胸部外科領域の再建、すなわち気管分岐部や左主気管支幹において使える安全性の高い人工気管の開発を行いたいと考えた。そこで、本研究においては平成26年度にコラーゲン部分の改良で代用気管の生体親和性の向上と改良を行なった。胸部外科領域、とりわけ胸腔内での置換に耐え得る代用気管の完成を目指すとともに、上皮化の促進のために組織幹細胞の応用と新たな術式を検討した。本研究は、最近の組織幹細胞を使う新しいin situ Tissue Engineeringであり、ES細胞や脳死移植など倫理的に高いハードルのある技術を使っていない。このため直ちに臨床応用が可能である。本研究はその第一歩となる必要不可欠な動物実験であり、胸部外科領域の応用研究としては世界初の試みであった。ポリプロピレンとアテロコラーゲンを複合化させたY字型の人工気管の改良を行った。これによって従来より早期に自己組織化ができることを確認した。ビーグル犬を用いた埋殖実験で手術手技や術中換気システムを完成させた。これらの新所見は今後の開発に貢献できるものと考えている。
2: おおむね順調に進展している
1.大型実験動物としてビーグル犬を用いて、新しく開発した人工気管による気道再建実験でその安全性と臨床効果を確かめる。人工気管はこれまで我々が開発して、耳鼻科領域の頸部気管の再建に臨床使用しているコラーゲンとポリプロピレンメッシュの複合材のコラーゲン部分を薄フィルム多房構造のコラーゲンに改良し、さらにビーグル犬の組織由来幹細胞を含漬させることにより上皮化・組織化は促進できるか評価する。再建部位はまず気管分岐部で行う計画であった。2.新しい代用気管の作成に関しては、代用気管のコラーゲン部分を従来のアモルファスコラーゲンから新たに開発した薄フィルム多房構造に改良して、組織再生を促進させることに成功した。さらにステントの形状を改良して、現在は螺旋状に入っている輪状やU字型のステントを一体成形させた代用気管を試作する。縦隔内気管再建に耐える気密性のある代用気管にするため、コラーゲンの密度を向上させ剥離しにくい構造にできた。3.組織幹細胞の応用による上皮化・組織化の促進に関しては、再生組織工学の手法をもちいて自己骨髄より組織幹細胞を術前に増殖させておき、気管再建手術時に代用気管のコラーゲン部分に散布することによって早期の組織化や上皮化が起こることを確かめることができた。4.分岐部人工気管の設計と術式の開発に関しては、分岐部人工気管、加えて7cm~10cmの長い人工気管を設計し、中央部の力学強度が保持でき、かつ組織化が早く進むような構造のものを開発した。動物実験用の左主気管支用の代用気管も同時に作成し、安全な手術術式を検討する。再建では、右後側法で肺門背側からのアプローチと左開胸で大動脈の後方からアプローチする術式を比較することができた。5.幹細胞を使った実験系に関しては、これまでの経験を生かして今後新しい実験系をデザインして行きたいと考えている。
①本研究において明らかになった気管分岐部の再建における問題点を解決して、臨床で安全に用いることのできる人工気管の開発を推進する予定である。具体的には、気管分岐部という特殊な解剖学的位置にある臓器なので、手術で再建するには縫合時の換気をどうやって確保するかという問題が外科的に大きいことが判明した。これは通常の方肺換気だけでは対処不可能なため、術野挿管などの技術を駆使する必要があった。②TGF-b, b-FGF, HGFによる上皮形成促進実験、すなわち組織化を促進すると考えられるiPS細胞とサイトカイン(TGF-b, b-FGF, HGF)を代用気管のマトリックス部分に複合化する技術も実用化に向けて進めていきたい。③血管柄つき遊離移植術式の完成も今後進めたい方策である。再建部周囲に血流が乏しく組織化が遅れると生命に関わる症例にはあらかじめ大網内に埋殖して組織させた代用気管を用いる術式の方が安全と考えられる。そういった術式にも対応できるような新しい人工気管手術を完成させることが急務であろう。④臨床応用の開始に向けては、動物実験で長期の安全性と効能の確かめられた新型代用気管モデルを、大学病院内の倫理委員会の承認を得たのち、臨床応用したいと考えている。
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