研究課題/領域番号 |
25253085
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐谷 秀行 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (80264282)
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研究分担者 |
サンペトラ オルテア 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (50571113)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 癌 / 発生・分化 |
研究実績の概要 |
グリオブラストーマは治癒不能な脳腫瘍である。その難治性の重要な原因の一つとして、腫瘍細胞の強い浸潤能を規定する因子が解明されておらず、抗浸潤療法が確立していないことが挙げられる。私達はこれまでの研究により、浸潤能が高い腫瘍細胞が正常血管を引き込む能力を持っており、その現象こそが抗浸潤・血管新生療法の重要な標的になるという新しい概念を打ち出した。本研究ではそれらの結果に基づいて、グリオブラストーマの浸潤性及び血管引き込み現象の分子基盤を解明すると同時に、腫瘍細胞による血管引き込み現象を抑制する薬剤の開発を目標にしている。 平成26年では正常神経幹細胞にHRasV12を導入して作成した腫瘍起源細胞及び腫瘍幹細胞を使用し、引き続き腫瘍幹細胞による血管引き込み現象の解析を行った。 1)腫瘍細胞と血管内皮細胞の3次元培養システムを用いた実験より、血管引き込み現象が血流、酸素濃度、微小環境の栄養素に依存しないことがわかった。一方、腫瘍細胞が血管内皮細胞を引きつける条件として、内皮細胞が血管様の3次元構造を作ることが必須であることを明らかにした。2)腫瘍幹細胞側の解析より、血管を引き込む細胞と引き込まない細胞とでは代謝特性が異なっていることを見出した。3)マウスの大動脈輪を用いた血管新生の評価系を確立し、腫瘍幹細胞と血管内皮細胞が形成する浸潤複合体の特性と形成条件を検証した。4)前年度の解析より浸潤複合体形成の規定因子として浮かび上がった血管内皮細胞側の8因子、腫瘍細胞側の1因子について機能的に治療の標的になりうるかどうかの検証を開始した。血管内皮細胞側の因子についてはリアルタイム・イメージングを行い、浸潤複合体形成時に発現が上昇する因子を2つまで絞り込んだ。また、腫瘍細胞側の1因子については、3次元培養システムにおいてその発現を抑制する実験を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はグリオブラストーマにおける腫瘍細胞による正常血管の引き込み現象の分子基盤の解明及び浸潤・血管新生を抑制する低分子化合物の取得を最終目標としているが、平成26年度では腫瘍細胞と血管内皮細胞が形成する浸潤複合体の形成条件と分子基盤の解析を実施した。 腫瘍幹細胞と血管内皮細胞が形成する浸潤複合体(Tumor-Endothelial Cell Invasion Complex; TEIC)形成のリアルタイム・イメージングにより、前年度同定した浸潤関連因子をさらに絞り込むことに成功した。また、微小環境や腫瘍幹細胞の代謝特性の役割を解析を施行したことにってTEICを標的とする薬剤のより的確な選定が可能になった。得られた結果から、当初予定していた創薬のスクリーニングに加え代謝を標的とした薬剤のスクリーニングも施行する必要性が示唆されたため、血管引き込み現象の新しい評価系も確立し、より広範な薬剤スクリーニングの準備を整えた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は培養脳切片を用いた浸潤抑制剤の探索も開始する。 独自に収集した既存薬ライブラリー及び低分子化合物ライブラリーを用いて、培養脳切片内における腫瘍細胞の浸潤を抑制する化合物の取得を目指す。その際、代謝を標的とした薬剤の評価も施行する。 スクリーニングによって同定された低分子化合物の構造に基づいて類似化合物を入手し、それらの効果を再び同アッセイ系によって検定する。低濃度で活性をもち、細胞毒性の少ない化合物を取得し、腫瘍細胞をマウスの脳内に定位的に移植するモデル及び脳腫瘍が自然に発生する遺伝子改変マウスモデルを用いて、投与実験を行う。
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