研究課題/領域番号 |
25257203
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
田村 忠久 神奈川大学, 工学部, 教授 (90271361)
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研究分担者 |
日比野 欣也 神奈川大学, 工学部, 教授 (80260991)
鳥居 祥二 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90167536)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 宇宙物理 / 宇宙科学 / 国際宇宙ステーション / 加速器 |
研究実績の概要 |
H26年度の9月にH27年2-3月期のCERN-SPSの重イオンビームのマシンタイム公募に対して、H8ビームラインでの2週間の重イオンビーム照射実験を申請した。最高エネルギーのビームを利用できるようにSPS責任者と幾度も交渉を重ねて調整を行った結果、最終的に2月11日から3月5日まで実験を行うことができた。ビーム実験に向けては、回路系と検出器系を準備した。回路系としては、H25年度に製作したフロントエンド回路(FEC)の基板への部品組上げを、宇宙機であるCALETの電気コンポーネントを開発したメーカーに依頼した。コストを抑えるために、民生部品の活用と宇宙品レベルの試験を省略する方針で打合せを重ね、一旦は製造の見通しをつけたが、製造を開始する段階でメーカー想定の民生部品等の使用が実際には困難で、宇宙仕様の部品を使わざるを得ないことが判明した。そのため、ビーム照射実験の時期も考慮して、H27年度予算を前倒しにすることで重粒子検出に最も重要なCHDのFECだけを製造し、その他のFECは借用したBBM(試作試験用モデル)品と自作の模擬回路を流用した。検出器系としは、H24年に利用したCHD+IMCとTASCの熱構造モデルを再組立てし、H25年度購入のCHD用プラスチックシンチレータとTASC用追加PWO結晶を組込んだ。追加PWOの配置はシミュレーションで決定した。ビーム実験は日米伊共同で行った。一次ビームのアルゴンの運動量は核子あたり150, 19, 13 GeV/cの3通りで、アルゴンの直接照射の他、ターゲット照射後の破砕核の照射も行い、入射位置を変えながら750万イベントを取得した。今後、エネルギー分解能、角度分解能、粒子選別能力、クエンチング効果、デルタレイの効果などを詳細に解析する予定である。検出器と実験機材の往復の輸送費および実験参加者の旅費も支出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H26年度の当初の目的であったCERN-SPSにおけるH27年2-3月期の重イオンビーム実験をH8ビームラインにおいて実施することができた。最高エネルギーのビームの利用を最優先してマシンタイムを申請したが、ビームエネルギーの低い時期を割り当てられたため、SPS責任者との交渉を行い、利用可能な最高エネルギーである核子当り150 GeV/cと、最低エネルギーの核子当り13 GeV/c、および核子当り19 GeV/cを用いて実験を行うことができた。電荷検出器であるCHDには、H25年度に調達したプラスチックシンチレータと光電子増倍管(PMT)を組み込むことができ、また全吸収型検出器であるTASCには、同じくH25年度に調達した10本のPWO結晶シンチレータと読み出しセンサーAPD/PDを追加することができた。CHDのフロントエンド回路については、CALETのフライト実機同等品を製作したが、納品時期がCERN(スイス)への実験機材の輸送後にずれ込んだため、事前の調整試験を充分に行えなかった。そのため、CERN現地でビーム実験の実施と並行して調整試験を行ったが、実験期間中に装置に組み込むことができなかった。しかし、CERNの主要実験の一つであるNA61グループは、H27-29年にも鉛ビームやキセノンビームによる実験を計画しており、我々はその機会にCHDのフロントエンド回路を使った重イオンビーム実験を行うことが可能である。今回のビーム実験では、日米伊による共同シフトにより、予定していた条件でのデータを取得することができ、ビーム実験は成功裏に完了した。また、今回のCERNでのビーム実験の実施時期は年度末の2-3月期ではあったが、実験機材と検出器の往復輸送も滞りなく実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
H27年の2月から3月にかけての1ヶ月間にCERN-SPSのH8ビームラインにおいてアルゴンビームを用いた重イオンビーム照射実験を行ったので、H27年度には新たなビーム実験を行わずに、取得したデータの解析を集中的に行う予定である。解析するデータは、一次ビームであるアルゴンの運動量が核子あたり150 GeV/c、19 GeV/c、13 GeV/cの3通りで、アルゴンビームの直接照射他に、アルゴンビームをターゲットに照射して得られる破砕核を照射することで、陽子からアルゴンまでの原子核ビームを照射した。さらに入射位置も変更することで合計750万イベントを取得している。これらについて、角度分解能、エネルギー分解能、粒子選別能力、クエンチング効果、デルタレイの効果など、詳細な解析を行わなければならない。本研究の目的は、加速器実験データをシミュレーションによって再現することにある。そのための解析を通してシミュレーションを詳細化し、その精度を向上させることができれば、これまでシミュレーションによって評価してきたCALETフライト実機の性能を確定することができる。次年度のCERNでのビーム実験の実施方針については、データ解析の結果をもとに検討する。また、実験装置の改修も、データ解析の結果を踏まえて行う予定である。このビーム実験は、日米伊の共同研究であるが、データ解析はそれぞれ独立に進めているので、それぞれの解析結果の検討や議論を行うための電話会議やミーティングを定期的に行う予定である。
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