研究課題/領域番号 |
25257208
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平島 崇男 京都大学, 理学研究科, 教授 (90181156)
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研究分担者 |
中村 大輔 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (50378577)
河上 哲生 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70415777)
苗村 康輔 名古屋大学, 博物館, 特任助教 (50725299)
吉田 健太 大阪市立大学, 理学研究科, 特任講師 (80759910)
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研究期間 (年度) |
2013-10-21 – 2017-03-31
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キーワード | 深部流体 / 超高圧変成帯 / ボヘミア山塊 / キルギス / 中国・大別山蘇魯帯 / ラマン分光 / ローソン石青色片岩 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、世界各地の超高圧変成岩から地下深部流体の活動履歴を読み取り、深部流体が超高圧変成岩の形成や、その上昇過程に果した役割の解明を目指している。 今年度は、まず、温かい(>850℃)超高圧変成帯であるチェコ・ボヘミア山塊の研究において、超高圧エクロジャイトから見出した部分溶融部と基質に含まれるざくろ石と単斜輝石の微量成分組成を検討したところ、部分溶融メルトは母岩のエクロジャイトそのものが供給源であるとの結論に達した(Miyazaki et al., 2016)。このことは、最高変成温度が1000℃を超えるような温かい超高圧変成帯においては、減圧時の初期に生じる部分溶融メルトが岩体の密度が減少させ、岩体の上昇速度を加速させる効果があることを示唆する。 冷たい(<650℃)超高圧変成帯であるキルギス・マクバル岩体において、平成28年8月に現地調査を実施した。この調査で採集した試料から見出した流体包有物に対して、室温と低温状態でのラマン分光測定と冷却ステージ上で凍結させた流体包有物のFIB-SEMを用いた化学分析を実施し、この流体包有物は超高圧変成岩では稀なCa,Na,K,Clに富んだ高塩濃度H2O流体であることを突き止めた。この成果は国際会議などでの発表に向けて現在も研究継続中である。 冷たい超高圧変成帯の低温部(<300℃)の模擬物質として、ローソン石を産する日本の高圧変成帯で研究を実施した。九州・黒瀬川帯の研究では、広域的な鉱物組み合わせの変化から、冷たい沈み込み帯の地下30km付近までは、緑泥石を消費する吸水反応によってローソン石青色片岩が形成されたこと、また、上記のローソン石青色片岩は全岩の約5重量%に匹敵する量のH2Oを含水鉱物として保持しており、マントル深部への水の運び手であることを天然の岩石を用いて明らかにした (Sato et al., 2016)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記述した以外に、チェコ産超高圧エクロジャイトの一部は、地下深部で母岩に貫入したcm幅の高圧メルトを起源とすること突き止めた(安本ほか、2016)。当該エクロジャイトの起源として、高圧メルト起源説(Medaris et al., 1995)と沈み込んだ塩基性火成岩説(Obata et al., 2006)の2つのモデルが提案されていたが、安本ほか(2016)により、両モデルが成立することが示された。この研究とMiyazaki et al. (2016)の研究をすり合わせると、バリスカン造山帯の地下深部では、超高圧変成作用の前後に2回以上のメルトの活動が生じており、それらが、超高圧変成岩の形成とその上昇過程に深く関与していたことが描き出された。 中温型(650℃~850℃)の超高圧変成帯の代表例である中国・大別山-蘇魯帯の試料の研究では、バロア閃石、緑簾石、タルク等の含水鉱物が最高圧力時に安定であったことを新たに見出した(山崎ほか、2016;藤瀬ほか、2016)。藤瀬ほか(2016)は大別山試料から、タルクが藍晶石、ゾイサイトと石英(あるいはコース石)と共存していることを見出した。タルクと藍晶石は温度が上昇するとパイロープとコース石に変化すると伴にH2Oを放出する。また、藍晶石とゾイサイトとH2Oはローソン石を加熱すると得られる分解生成物である。大別山では、超高圧エクロジャイトを形成した沈み込みの初期にはローソン石が安定であったとの報告がある(Castelli et al., 1998)。つまり、この試料では、ローソン石から放出されたH2Oの一部はゾイサイトに保持され、タルクと伴に超高圧深度まで水を運んでいたことが示唆された。 今年度はノルウェー北部の超高圧変成帯の調査を現地案内人の都合で断念したので、当該年度の研究は「概ね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
計画最終年度にあたるので、室内実験を継続しつつ、各研究グループ毎にその成果を取りまとめて論文化に力を注ぐ。さらに、それらの成果を相互に比較検討し、超高圧変成岩の形成に深部流体が寄与した役割について多角的な視点で検討を行う。 ボヘミア山塊での超高圧変成岩はマントル深度に達するまでに含水鉱物の大半は分解し、ドライな状況に置かれたことが想定される(Yasumoto et al., 2016)。しかし、中温型(650℃~850℃)の超高圧変成帯の代表例である中国・大別山-蘇魯帯試料の研究では、超高圧条件下でも安定なタルク、角閃石、緑簾石、白雲母などの含水鉱物中にH2Oが保持されていることがわかった。今年度は、モデル計算等から高圧・超高圧条件下での含水鉱物の挙動を検討し、マントル深度で想定される脱水反応や部分溶融メルトについてのモデル化を行うと伴に、含水鉱物の微量成分分析等を実施し、超高圧変成岩から放出される深部流体の化学組成についての検証を試みる。 冷たい超高圧変成帯であるキルギス・マクバル岩体では超高圧時に安定であったローソン石が減圧時に分解すると考えられている(Orozbaev et al., 2015)。昨年度の研究で見い出した、CaCl2に富んだ流体包有物はローソン石の脱水分解からもたらされた可能性が高い(Yoshida et al. 準備中)。今年度はマクバル試料の流体包有物の岩石学と含水鉱物の微量成分分析等を継続する。冷たい超高圧変成帯の低温部(<300℃)の模擬物質とみなせるローソン石青色片岩の研究もあわせて実施し、冷たい超高圧変成帯の沈み込み帯浅部からマントル深度で活動した深部流体の組成特性の解明を目指す。 上記の研究成果は、まとまり次第速やかに国際誌等に論文を投稿し、成果の公表に努める。
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