1.文化財修復技術:蟻害や老朽化のために修復が必要となっていた、延福長公主祠(阮朝初期皇女の住宅/祠堂)は、阮朝の建設・造営を担当する「工部」という行政機関が管轄したことが確認されており、早大研究活動の成果を技術支援として提供する現場として相応のものであった.これに対して、部分解体調査を行い、保存修理計画案の策定を実践し、詳細な実測図、痕跡図、復原図、修理詳細図、工程図等を作成している.今年度は、木造建造物の修復プロセスのマネジメント技術の伝達のため、竣工図や番付図などの作成とともに、これらを報告書の形にまとめた. 2.保存科学:延福長公主祠のあるキムロン地区は、阮朝期以前からの由緒ある土地柄、伝統的木造家屋が比較的多く残る地域となっている.それらは、現地の言葉で「庭の家」と呼ばれるように、敷地に広く庭を構えて、様々な種類の木を植える.こうした樹木が多く多湿な環境は、蟻害を受けやすい環境と判断された.保存修理計画に際し、抜本的な対策として地盤改良があり、それを報告書としてまとめた. 3.文化的景観保全:阮朝およびその始祖である広南阮氏によるチャンパの攻略と、その成果である現在のベトナム中南部域への勢力拡大がある.登り梁ケオの架構を残す建物の分布を見る限り、この「南進」の過程で、独自の架構形式を生み出したか、何らかのかたちで土着的伝統の再編があったことは明らかであり、これはチャンパの建築設計技術との交流を示唆するものである.フエ周辺に点在するチャンパ遺跡の尺度分析により、ベトナムが他の地域との交流を通じて、如何にして尺度概念を受容し、あるいは共有していったかの解明を目指す.またチャンパ遺跡とその周辺遺構からの変遷の痕跡を探り、登り梁ケオの構造形式につながる過程の復原研究について一定の成果を得た.
|