研究課題/領域番号 |
25257402
|
研究種目 |
基盤研究(A)
|
応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
鈴木 聡 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90196816)
|
研究分担者 |
田村 豊 酪農学園大学, 獣医学部, 教授 (50382487)
高田 秀重 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (70187970)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 抗生物質耐性菌 / 薬剤汚染 / 環境撹乱 / 水圏 / 熱帯アジア |
研究概要 |
熱帯アジアでは,人間生活・畜産など様々な排水の流入と洪水により水環境が撹乱され,種々の起源から薬剤耐性菌・遺伝子の混合が起こる.本研究は,こうした環境下で耐性遺伝子と薬剤の汚染実態をモニタリングし,水環境における耐性遺伝子の環境中残存と伝播の実態を解明することを目的とする.初年度(平成25年度)は,まず調査地域をタイに設定し,相手国協力者と相談の上,チャオプラヤ川流域の農業地帯,市内運河などに適切なサイトを設定し,予備調査を行なった.初年度の成果は次のようにまとめられる. 耐性遺伝子定量:市内運河,チャオプラヤ川,タチン川いずれでもsul1, 2がほぼ同じコピー数であり,欧州や日本とはsul保有パターンは異なっていた.sul3は環境の非培養菌が保有していることが分かった.タチン川では培養菌でsul遺伝子群を持つ耐性菌が少なく,sul以外の耐性機構が示唆された. 耐性菌解析:バンコク周辺の河川水から選択培地で大腸菌,エロモナス属菌を多数分離した.分離株のうち約3割がテトラサイクリンとサルファ剤耐性遺伝子を保有していたほか,プラスミド性キノロン耐性遺伝子を保有する株も約1割検出された.捕獲したハエからはセフォタキシムに耐性大腸菌が見いだされた.耐性株はblaCTX-M55,blaCTX-M14,blaCMY-2プラスミドを保有し,異なる地点の大腸菌も同一プラスミドを保有していた.ハエは熱帯アジアにおいて耐性プラスミドのベクターであることが示唆された. 抗生物質定量分析:抗生物質の合計平均濃度は23-161 ng/Lであった.これは他の熱帯アジア国に比べて一桁程度低かった.雨季のため希釈効果が大きいと考えられる.組成は全般にサルファ剤が優占しており,畜産排水の寄与が大きいと考えられた.抗菌薬濃度と薬剤耐性割合の間に関連性は認められなかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度で遺伝子解析(sul遺伝子群とtet(M)の定量,blaCTXシリーズ,qnr,tet(A)などのeffluxシリーズの検出),耐性菌同定とプラスミド保有状況,および薬剤濃度解析,いづれでも新たな結果が得られ,次年度への予備調査としては予定以上の成果が得られた.台風で撹乱されて水量が多かったにもかかわらず,環境水中の耐性遺伝子コピー数は高く,常に耐性菌が高濃度で存在することが明らかになった.耐性大腸菌も多く分離され,人や畜産起源の陸圏からの流入と考えられる.薬剤濃度は比較的低かったが,薬剤種から畜産の影響が示唆された.初年度で多くの結果が得られた要因としては,タイの協力者の貢献も大きく,現地での調査と実験がスムースに進んだことも成果に繋がった.成果の公表,論文発表はまだであるが,26年度には数報の発表が期待できる.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の調査結果を踏まえ,薬剤の起源として大きい畜産排水とその周辺環境を調査点に加える.陸水から海に至るまでに薬剤は希釈・分解を受けると推測され,また耐性遺伝子では環境菌へ伝播して定着すると推測されるので,今後は採水範囲を広くする計画である. 水圏から陸圏への耐性遺伝子の運搬ルートはまったく分かっていない.本研究では,衛生昆虫(とくにハエ)が陸環境や食品への耐性遺伝子の運搬に関わると仮説をたてているので,26年度からはその証明を調査と実験で進めて行く.成果公表では,タイの協力者の大学でセミナーを開催し,また国際学会での発表を進めて行く計画である.
|