研究課題
熱帯アジアでは,人間生活・畜産などの排水流入と洪水により水環境が撹乱され,種々の起源から薬剤耐性菌・遺伝子の混合が起こる.本研究は,こうした環境下で耐性遺伝子と薬剤の汚染実態をモニタリングし,水環境における耐性遺伝子の環境中残存と伝播の実態を解明することを目的とする.平成26年度は,25年度の調査地域に畜産地帯と海水域を加えた.1)キノロン系抗生物質の分析法を検討したところ,固相抽出と溶出の段階を工夫してキノロン系抗生物質を回収率よく測ることができるようになった.開発した方法を適用して,タイ,インドネシア,ベトナムの河川水中のキノロン系抗生物質の測定を行った.キノロン系抗生物質と共にサルファ剤,マクロライド系抗生物質,サイクリン系抗生物質も測定した.その結果,マクロライド系抗生物質の寄与が大きかった.マクロライドの中ではOfloxacinが20-70%を占めた.各国の経済状況と使用薬剤の価格に相関が見られた.2)菌分離解析では,バンコク市内の河川水,ラチャブリー養鶏養豚農場排水,下水処理場,沿岸水からエロモナス属菌と大腸菌株を分離した.約5割がテトラサイクリン耐性遺伝子とサルファ剤耐性遺伝子を保有しており,約2割がプラスミド性キノロン耐性遺伝子qnrSを保有していた.今回の調査では,薬剤耐性割合や耐性遺伝子保有割合と河川水・農場排水のテトラサイクリン濃度に相関があった.加えてエロモナス属株から各種のセフォロスポリン耐性遺伝子が検出された.畜産排水の特異性が分かった.3)耐性遺伝子定量では,sul1,2,3およびtet(M)が淡水全群集および培養菌から高い濃度で検出された.海水では全群集でも培養菌でもほとんど検出されなかった.畜産,医療から流れ込んだ耐性菌が淡水では残存していることが示唆された.26年度までの調査で,タイ国の水環境では畜産排水の影響が大きい事が示唆されてきた.
1: 当初の計画以上に進展している
2度目の調査が無事に終了し,成果の学会発表も進んでいる.化学分析,選択的菌分離,遺伝子定量の分担がうまく機能しており,調査地域の特徴が分かってきた.研究は効率的に進んでおり,総合的に見て当初の計画以上に進度・内容とも進展していると判断できる.
当初計画は予定通り進め,平成27年度はこれまでのバンコク周辺の人口密集地帯に加え,タイ南部の畜産中心地帯の排水由来の汚染を調査する予定である.畜産起源の汚染と水域汚染の関連が明確になると期待できる.また,論文執筆を進めると同時に,シンポジウムなどで成果のアピールも行なうことを計画している.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 5件)
Environmental International
巻: 80 ページ: 89-97
http://dx.doi.org/10.1016/j.envint.2015.04.001
Letters in Applied Microbiology
巻: in press ページ: in press
doi: 10.1111/lam.12414
動物用抗菌剤研究会誌
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
Frontiers in Microbiology
巻: 5 ページ: Article 152
doi: 10.3389/fmicb.2014.00152