研究課題
本研究は、環境の異なる様々な海域において学術調査を行い、系統関係を考慮した種間形質比較を行うことによって、アオサ藻綱の海産緑色藻類に見られる同型配偶から顕著な異型配偶まで多様な配偶システムが進化した適応放散の過程を明らかにすることを目的にしている。これまでに、現生の海産緑藻類に見られる同型配偶には、2つのタイプがあることが明らかになっている。さらに、その後の理論解析によって、これらの2つのタイプの配偶システムいずれも最も原始的なものではないだろうことが示された。平成27年度は、研究計画通り、アオサ藻綱の海産緑色藻類のなかでも、これまでの研究によってとりわけ精度の高い分子系統解析が可能となったハネモ目においてこれまでに行った研究データの解析を進めた。この目の構成種の多くは、顕著な異型配偶を行っているが、雌性配偶子のサイズには種間で大きな変異が見られるため、配偶子の異型性には幅広い多様性が見られる。ここでは雌性配偶子のサイズのみが重要であるように見られがちであるが、雄性配偶子は小型であるがゆえにわずかなサイズの変異も配偶子の異型性の度合いに大きな影響を与える。野外調査は、研究代表者(富樫)が中心になって、(研究分担者 吉村、四ツ倉)の支援を受けながら、さらに多くの分類群の海産緑色藻類を対象にして、おもに北米大陸東海岸の米国・マサチューセッツ州の大西洋沿岸で行った。また、比較のための調査をオーストラリア・ビクトリア州のタスマン海沿岸において行った。採集した研究材料からDNAを抽出し、種レベルでの変異の存在が確認されているrbcL領域の塩基配列を解読して分子系統解析を行うとともに、実験室で人工気象器を使用して配偶体を培養することによって有性生殖を誘導し、配偶子のサイズをはじめとする配偶システムの特徴を調べている。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、現在までに、アオサ藻綱の海産緑色藻類のなかでも雌雄の配偶子サイズに幅広い異型の度合いが見られるハネモ目(Bryopsidales)について、データの蓄積と解析を行うことに成功している。さらに、野外調査によって配偶子の異型性の弱い種を含むさらに多くの種についても雌雄ともに収集し、それぞれ単藻培養系を確立することに成功してきた。これらの株は人工気象器を用いて実験室で安定的に継代培養が出来ているうえ、淡水産緑色藻類のボルボックス目で見られるような保存株における配偶子形成能の消失も見られず、配偶システムに関する知見の蓄積も進んでいる。これらの保存株からDNAを抽出する作業においても、他の多くの藻類で見られるような二次的な代謝産物によるDNA抽出反応の阻害も起きていない。このため、ジェネティックアナライザーを用いて、抽出したDNAサンプルのRUBISCO large subunit (rbcL)領域を中心とした塩基配列の解読が進んでいる。この領域には系統解析を行うために必要な適度の変異もあるようだ。これによって、これまで発表された文献にある分子系統情報も活用しながら、信頼度の高い系統解析が出来ている。これらのデータを基にして、PIC(Phylogenetic Independent Contrast)法に続いてPGLS(Phylogenetic Generalized Least Squares)法を用いた実際の解析を行うことが出来た。
これまで主に配偶子のサイズ異型性の強いアオサ藻綱ハネモ目(Bryopsidales)の海産緑色藻類を対象にして習得したPICやPGLSなどの系統関係を考慮した種間形質の比較手法を用いて、今後は研究の中心をわずかな異型配偶や同型配偶を行う種に移していく。そこでも、これまで確立してきた手法を応用して、従来のデータに加えて本研究で新たに加えることが出来た種から抽出したDNAを使ってRUBISCO large subunit (rbcL)領域の塩基配列の解読を行う。解読した塩基配列データを基にして、系統解析を行って、系統樹の樹形ならびにそれぞれの枝の長さを求める。得られた系統樹の樹形と枝長のデータを使って、Rを用いたプログラミングを行って、系統関係を考慮しながら、配偶子サイズ、ならびに海産緑色藻類では特にそれと密接に関係している走光性と性フェロモンの組み合わせからなる配偶子の行動と生息場所の環境(特に水深)、ならびに体サイズなどの生活史形質について、種間比較を行う。系統樹の樹形や枝の長さはどのような手法で系統解析を行うかによっても多少の違いが出てくることが一般的であるため、系統解析方法の違いによって種間形質の比較結果がどのような影響を受けるかについても注意しながら結果の考察を行っていく。野外調査計画の立案に当たっては、効率的に配偶体を採集することが出来るよう対象種のフェノロジーに引き続き十分注意する。これによって、本研究の最終的な目的の達成に近づいていく。
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