研究課題/領域番号 |
25257406
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
富樫 辰也 千葉大学, 海洋バイオシステム研究センター, 教授 (70345007)
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研究分担者 |
吉村 仁 静岡大学, 創造科学技術大学院, 教授 (10291957)
四ツ倉 典滋 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (60312344)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 異型配偶 / 性淘汰 / 性的二型 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、様々に環境の異なる海域において学術調査を行い、系統関係を考慮しながら種間形質の比較の方法を用いることによって、おもにアオサ藻綱の海産緑色藻類に見られる同型配偶から顕著な異型配偶まで多様な配偶システムが進化した適応放散の過程を明らかにすることを目的にしている。これまでに、現生の海産緑藻類に見られる同型配偶には、2つのタイプがあることが明らかになっている。
平成28年度は、研究計画に則って、アオサ藻綱の海産緑色藻類のなかでも、これまでの研究によってとりわけ精度の高い分子系統解析が可能となったハネモ目においてこれまでに行った研究データの補完と配偶子の異型性の弱いグループについての学術調査を進めた。ハネモ目を構成する種の多くは、顕著な異型配偶を行っており、配偶子の異型性には幅広い多様性が見られるため本研究の重要な対象となり得ると考えた。これまでの研究では、卵配偶を含む異型配偶を行っているグループの配偶システムの進化においては、雌性配偶子のサイズのみが重要であるように見られがちであったが、雄性配偶子は小型であるがゆえにわずかなサイズの変異も配偶子の異型性の度合いに大きな影響を与える可能性があると考え、より精密な分析が必要であると考えた。
野外調査は、研究代表者(富樫)が中心になって、(研究分担者 吉村、四ツ倉)の支援を受けながら、さらに多くの分類群の海産緑色藻類を対象にして、おもに北米大陸東海岸を南下して米国・フロリダ州のメキシコ湾沿岸で行った。採集した研究材料からDNAを抽出し、この目において種レベルでの変異の存在が確認されているrbcL領域の塩基配列を解読して分子系統解析を行うとともに、実験室で人工気象器を使用して配偶体を培養することによって有性生殖を誘導し、配偶子のサイズをはじめとする配偶システムの特徴を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、現在までに、アオサ藻綱の海産緑色藻類のなかでも雌雄の配偶子サイズに幅広い異型の度合いが見られるハネモ目(Bryopsidales)を中心としたグループについて、計画した配偶システムに関するデータの蓄積と解析を行うことに成功しているうえ、より多くの種を加えるとともにこれまでPIC(Phylogenetic Independent Contrast)法で行っていた解析をより新しいPGLS(Phylogenetic Generalized Least Squares)法に変更することによって、研究の精度を向上させた。これに加えて、野外調査において配偶子の異型性の弱い種についても雌雄ともに収集し、それぞれの単藻培養系を確立して、実験室でのより詳細な研究を進めた。これによって、研究計画通り配偶システムの進化を考えるうえで不可欠なデータが収集できたことに加えて、研究計画を立案する段階で期待した以上に生活史の多様化を理解するうえで重要な新しい知見が得られている。研究を進めるにあたっては、多くの藻類で研究の進展を妨げている実験室で保存している培養株に有性生殖能力が失われてしまうという問題にも直面していない。塩基配列の解析を行う際には、他の多くの藻類で見られるような二次的な代謝産物によるDNA抽出反応の阻害も起きていない。このため、既存のジェネティックアナライザー(ABI 3130)を用いて、抽出したDNAのうち主としてRUBISCO large subunit (rbcL)領域を中心とした塩基配列の解読が進んだ。この領域には系統解析を行うために必要な適度の変異もあり、これまで発表された文献にある分子系統情報も活用しながら、信頼度の高い系統解析に基づいて現在論文の執筆も進めている。
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今後の研究の推進方策 |
雌雄の配偶子の間のサイズの違いがあまり見られないわずかな異型配偶や両性の間で配偶子にサイズの違いが見られない同型配偶を行うヒトエグサ属(Monostroma)、アオサ(Ulva)、アオノリ属(Enteromorpha)などの属を含むヒビミドロ目(Ulotrichales)を中心とした海産緑色藻類においても、これまで本研究で確立してきた手法を応用して、従来のデータに加えて本研究で新たに加えられた種から抽出したDNAを使ってRUBISCO large subunit (rbcL)領域を中心としたDNA塩基配列の解読を進める。解読した塩基配列データを用いて、PGLSを中心とした最新の種間形質の比較法を用いて、系統関係を考慮しながら、配偶子サイズ、これまでの我々の研究によって海産緑色藻類の配偶システムと密接に関係していることが明らかになっている走光性と性フェロモンの組み合わせからなる配偶子の行動と水深などの生息場所の環境、ならびに体サイズなどの形質に着目して種間比較を行う。系統樹の樹形や枝の長さはどのような手法で系統解析を行うかによっても多少の違いが出てくることが一般的であるため、系統解析方法の違いによって結果がどのような影響を受けるかについても引き続き注意を払いながら結果の考察を行う(例えば、最尤系統樹と最節約系統樹の間で樹形と枝長の違いによる解析結果の違いが出る場合が淡水産緑色藻類における研究で明らかになっている)。野外調査計画の立案に当たっては、効率的に配偶体の採集を行うために必要な対象種が野外でいつ頃配偶体として現れているのかを中心としたフェノロジーの情報にも引き続き十分注意して野外調査を行う。これによって、本研究の最終目標の達成を目指していく。
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