研究課題
本研究は、vCJD(BSEウシ海綿状脳症由来のヒトのプリオン病であるバリアント型クロイツフェルト・ヤコブ病)プリオンの血液中での検出を目指した高感度増幅法の開発とその応用としての英国での検査実施を目標としている。本年度は、血液中での検出という多数の蛋白の存在する状況下で我々が開発したPMCA(Protein Misfolding Cyclic Amplification)法がうまく働くのかを検証した。PMCA法に限らず、多くの検査方法でCSF(脳せき髄液)ではうまく検出できるのに血清あるいは血漿中では検出がうまくいかないという経験がある。事実、PMCA法でも血漿の存在下では増幅が阻害されるという報告があり、再現性を検証してみた。増幅する際に、容器に5%または10%のヒト血漿を加えると明らかにPMCAでのvCJDプリオンの増幅阻害が認められた。しかしながら、添加量をさらに加え20%を超えると驚くべきことに抑制効果は見られず、逆に増幅効果がみられるという結果になった。この抑制効果、増幅効果を示す分子を同定するために様々な試みを行ったが、現時点では抑制効果を示す数種類の蛋白と増幅効果を示す数種類の蛋白が存在する結果であろうという結論を得ている。同定は、今後も進めていく課題であるが、現時点では20%以上の濃度で血漿中のvCJDプリオンの増幅は、非常に効率的に行えることを中心としてtransfusion誌に報告した。また、これらの成果は、英国での共同研究者にはすぐに報告して情報の共有化を図っている。英国のグループへは、東北大学から基質のレコンビナントヒト型PrP蛋白を送っていたが、今年度からはヒト型PrP蛋白発現細胞を送り大量の消費を可能な状態としている。
1: 当初の計画以上に進展している
研究計画を立てた時点で、最も危惧していたのは、多数の蛋白が存在する血液中でのPMCAの抑制因子であった。10-10を超える感度であっても、抑制効果がその感度を10分の1や100分の1にする可能性が存在したのである。当初の危惧は、今年の研究成果によって完全に解消され、さらに高濃度の血漿ではPMCAの増幅効果が得られるという思わぬ利益ももたらした。この利益とは、高濃度の血漿を用いる増幅効果とともに、血漿のサンプルをより多く(大量に)検査できるというメリットももたらした。さらに、血液中の抑制因子、促進因子などの同定が行われれば、PMCA検査方法の感度をより一層上昇させる可能性も出てきた。もちろん、最終的目標として促進因子の同定があるが、その前段階でも陽イオン交換樹脂に結合した蛋白分画など総合的には促進効果が得られることがわかりつつあり、当初予想もしなかった新しい展開もでてきた。
英国での実用化試験とともに、さらなる増幅の効率化を目指して、東北大学では血液中の促進因子の解明とともに、PMCA反応のチューブ内にイオン交換樹脂を加えるなどの改良を持続的に行う予定である。我々のPMCAの限界希釈率は、10-10~10-11程度であるが、樹脂を加えることによって希釈率をさらに上げることは難しそうであるが、限界希釈したサンプルの陽性化が迅速に行える可能性が高いことがわかっている。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 4件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 2件)
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