研究課題/領域番号 |
25257508
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研究種目 |
基盤研究(A)
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
山下 俊一 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (30200679)
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研究分担者 |
高村 昇 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (30295068)
中島 正洋 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (50284683)
SAENKO Vladimir 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 准教授 (30343346)
光武 範吏 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 准教授 (50404215)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | チェルノブイリ / 甲状腺がん / 分子疫学調査 / がん組織バンク / 放射線影響 |
研究概要 |
チェルノブイリ周辺の海外連携研究拠点、並びに欧米共同研究機関と共に放射線誘発甲状腺がんの分子疫学調査を推進することを研究目的に、現地大規模コホート調査研究を一定の精度管理下で行い、甲状腺検診と生体試料収集保存管理のバイオバンクを構築維持する。チェルノブイリの甲状腺がん大凡1000例と対照大凡2000例を標的に網羅的遺伝子解析を推進中である。その結果、新たに内部被ばく線量評価を現地と共同で再構築していたが、すでに本年度中にウクライナ放射線医学研究所との共同研究において甲状腺被ばく線量の予備的再評価が終了し、疫学以外に他の臨床病理学的知見と分子遺伝的知見を総合的に網羅した「THYROID CANCER IN UKRAINE AFTER CHERNOBYL; dosimetry, epidemiology, pathology, molecular biology, 2014」の英語単行本を出版することに成功した。現在得られている放射線誘発甲状腺がんの感受性候補遺伝子群のSNPsを中心に分子疫学調査を国際レベルで推進中であり、特に散発性自然発症甲状腺がんの感受性遺伝子型候補であるFOXE1に着目し、その病理組織発現の特徴について解析し、新知見を得た。さらに、甲状腺乳頭癌の比較的高いがん遺伝子の一つであるBraf遺伝子の突然変異に着目し、53BP1との関係を明らかにした。チェルノブイリ現地での検体収集は順調であり、過去のデータの検証も計画通り進展している。なおチェルノブイリ甲状腺がんの被ばく線量の再評価から、東電(株)福島原発事故後の甲状腺発がんリスクの問題についてもそのリスク評価を比較して検討している。国際機関との連携による成果も結実しつつあり、この初年度でチェルノブイリの研究成果を生かした福島対応に向けた科学的エビデンスの蓄積が着実に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
チェルノブイリ周辺の生体試料バンクの国際共同管理運営は非常に困難であり、紆余曲折が避けられない。その渦中で、突然ロシアとウクライナの間で政治的な緊張が高まり、研究者派遣・受入交流が危ぶまれていたが、無事計画通り国際機関との連携も推進された。なによりも予想以上の成果としては、チェルノブイリの甲状腺被ばく線量再評価が一部終了し、ウクライナにおける小児甲状腺がんの疫学、病理学的特徴と分子遺伝学的研究成果を英語の単行本として発刊できたことである。チェルノブイリでの蓄積された甲状腺癌についての知見が、被ばくからの潜伏期の問題以外にもスクリーニング効果の影響も考慮され、幅広く福島支援に貢献していることは当初の計画以上に研究が進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
チェルノブイリの甲状腺がんの分子疫学調査研究については、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの3カ国以外に、欧米の研究機関ならび国際機関との連携が不可欠である。長年にわたる実績をベースに、今回の研究計画も大筋変更の予定は無く、現地サンプル収集に基づく再現性ある信頼できるような解析を推進する。なおチェルノブイリの知見を福島の中長期対策に生かす為に、IAEAやWHO(IARC)、UNASCEAR、ICRPなどとの連携も強め、甲状腺発がんリスクに寄与する種々の交絡因子に着目した研究を幅広く展開する。特に、福島の甲状腺超音波調査における小児甲状腺がんの発見増加に対するスクリーニング効果の寄与については、慎重に取組む予定である。さらに、チェルノブイリ周辺3カ国に対する研究者派遣については細心の注意を払い、安全対策を強化予定である。
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