研究課題/領域番号 |
25280063
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
入野 俊夫 和歌山大学, システム工学部, 教授 (20346331)
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研究分担者 |
河原 英紀 和歌山大学, システム工学部, 教授 (40294300)
西村 竜一 和歌山大学, システム工学部, 助教 (00379611)
津崎 実 京都市立芸術大学, 音楽学部, 教授 (60155356)
吐師 道子 県立広島大学, 保健福祉学部, 教授 (40347779)
籠宮 隆之 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 研究情報資料センター, 助教 (10528269)
竹島 千尋 桜美林大学, 芸術文化学群, 助手 (80583450)
中川 誠司 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 研究員 (70357614)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 聴覚音声知覚 / 信号処理 / 実験心理 / 言語聴覚士 / 補聴器 / 模擬難聴 |
研究概要 |
高度高齢化社会で不可欠となる効果的な聴覚音声支援の基盤整備を目標として、次の4課題に取り組んだ。 1) 健聴者/難聴者の聴知覚特性の解明: 1a) 非対称レベルマスカを用いた聴覚フィルタ形状と圧縮特性の同時推定法を、現在最も有力とされている時間マスキング曲線法による圧縮特性推定法との比較を行なった。提案法が、安定性が高く効率的であること、さらには測定時間短縮につながる方法であることを世界に先駆けて示した。1b) 音声からの寸法形状知覚について、将来の難聴診断に使うことを目標にして、まず健聴者の特性を調べた。健聴者でも初めて実験を行なう場合にある程度訓練が必要で、検討すべき事項であることが明確になった。1c) 難聴-健聴対比のために、重度難聴者を対象とした超音波骨導補聴器を用いて知覚特性を調べた。 2) 末梢系模擬難聴の実現と聴覚音声支援への応用: 難聴者のオージオグラムをGUIで入力すると、可能性のある複数の模擬難聴を再現できる簡易模擬難聴システムを開発した。 従来提案してきた聴覚モデル動的圧縮型ガンマチャープ(GCFB)分析合成系を改良したもので、入力音声の2~3倍という短時間で計算し、ユーザーに処理結果をその場ですぐ提示できるようになった。 3) 知覚的音声処理の高度化と応用: 上記の模擬難聴開発を通し、近似時変フィルタの1形態を用いたフレームベース処理で、従来の10倍以上のスピードで比較的品質の良い音を合成できることがわかった。C言語を使わずともMATLABで達成できたので、今後の開発の目安を得ることができた。 4) 聴覚音声支援: 4a) 2)の模擬難聴システムを言語聴覚士の養成課程で評価を進めるための検討と準備を行った。4b) 聞きやすい音声を解明するために、模擬難聴者とのインテーク対話のビデオ/データ収録や評価のための検討を行うとともに道具立てを整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の4課題にごとに進捗度合いが異なる。 1) 健聴者/難聴者の聴知覚特性の解明: 1a) この課題はいままで見つかっていない手法の開発でかなりの時間がかかると予測していたが、画期的な成果を出すことができた。計画以上の大幅な進展であった。 1b) 音声からの寸法形状知覚に関して、訓練によって手がかりを獲得できないと弁別精度が向上しないことがわかった。今後の実験を確実に行うためには重要な知見を得られたことは、順調と評価できる。特性限界に関しは訓練法が確立してから行うべきなのでまだ実施していない。しかし、全般的におおむね目標通り進展した。1c) 難聴-健聴対比の検討はおおむね順調に進んでいる。 2) 末梢系模擬難聴の実現と3) 知覚的音声処理の高度化: 簡易模擬難聴GUIのプロトタイプを作って試用することができた。従来の動的圧縮型ガンマチャープ聴覚フィルタバンクは処理速度が遅すぎるのが問題であったが、フレームベース処理で近似することにより、当該研究の最終目標値であった音声信号長の2~3倍での信号処理を達成できた。1年間の目標を大きく超える進展であった。 4) 聴覚音声支援:4a) 模擬難聴評価は、出来次第行う予定だったので当初案どおりであった。4b) 聞きやすい音声のための収録や分析に関しては準備段階で、やや遅れている。 以上をまとめると、(2)のおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
1) 健聴者/難聴者の聴知覚特性の解明: 1a) 提案法に関して、他の周波数や条件においても安定に推定できるかと、測定点のさらなる削減を検討する。最初は1kHzと4kHzで健聴者で行う。その後順次条件を増やし、健聴者で手法が十分確立した段階で、高齢難聴者の測定に移る予定である。1b) 音声からの寸法形状知覚について、なるべく短期間で手がかりが得られるように訓練手法の確立を進める。特性限界を求めるためにも必要な過程である。1c) 難聴-健聴対比に関し、超音波骨導補聴器の改良を進める。さらには、他の知覚特性に関しても検討を進める。 2) 末梢系模擬難聴の実現と聴覚音声支援への応用: 簡易模擬難聴システムに関して、ユーザーインタフェースや分析合成に関して、さらに完成度を上げる。さらに1a)の特性を比較的簡単に反映できるように、プログラム側のインタフェースについても検討を進める。 3) 知覚的音声処理の高度化と応用: 動的圧縮型ガンマチャープ(GCFB)に関して、個々のアプリケーションにおける要求精度に応じて近似の度合いを変えることを行う。当初目標以上の実時間処理に迫るようにMATLABでもアルゴリズムの工夫と検討を進める。 4) 聴覚音声支援: 4a)の言語聴覚士養成課程においてこの簡易模擬難聴システムの評価を行う。4b) 模擬難聴者/難聴者とのインテーク対話のビデオ/データ収録や評価を行う。これらの音声と通常会話の音声を対比しながら分析し、聞きやすい音声についての特徴量を抽出することを目指す。その特徴量を通常発話に転写することにより、聞きやすさが向上するかを検討する。さらには、聴力レベルに応じた聞きやすさの客観評価尺度を構成することを試みる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究報告に書いたとおり、研究が極めて良く進んでいる部分もある反面、一部やや遅れている部分もある。そこでは、物品購入、成果発表旅費、謝金の予算として使用する金額も少なめになった。 今後の研究進捗により、物品購入、成果発表旅費、謝金も増えると考える。その分に利用し、成果を挙げ発表をしていくことに使用する。
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