本課題は人間の能力を拡張するために人間を他の機械、あるいは他の人間と遠隔接続する手段を提供するものである。最終年度である本年度では、主に人間と人間の遠隔接続を中心に研究開発を行った。まず頭部搭載型の全周囲カメラシステムを構築し、装着者の周辺環境を360度の全周囲映像として取得し、複数カメラによる画像を一枚の全周囲映像(正距円筒図法画像)として連結する機構を構築した。この画像を蓄積ないし伝送することで、利用者の環境を追体験することができる。 一方、昨年度より、このような一人称映像では装着者の頭部揺れに起因する画像酔いが顕著であることも判明しており、今年度はそれを抑制する画像処理アルゴリズムの改良を行った。本アルゴリズムでは全周囲映像の特徴点追跡により映像の回転成分(クオータニオン)を抽出し、それを逆に適用することで回転の影響を相殺する。実験の結果、酔いが軽減するとともに、機械体操などを行う装着者の映像を観測する際に一体外離脱視点に近い感覚を得ることを発見した。この構造によれば、装着者の頭部方向や運動とは独立に、ネットワークから接続した参加者は任意の方向を観測することが可能になり、より自由度の高い共同作業が可能になる。 これらの知見より、本課題の成果は遠隔共同作業の基盤として利用できることに加えて、特殊な状況や能力を持つ装着者(たとえばトップアスリート)の視点からの環境情報を、画像酔いを誘発する揺れを除去した状態で観測できるよになった。すなわち、一人称体験の記録手段としても有効であることを確認した。これらの研究成果は論文発表、デモンストレーション展示のみならず報道機関等でも複数回報道され研究成果のアウトリーチを図ることができた。
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