研究課題/領域番号 |
25280104
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小山 博史 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30194640)
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研究分担者 |
中島 義和 東京大学, 工学系研究科, 准教授 (40343256)
齊藤 延人 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (60262002)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脳内神経回路 / 3次元可視化 / 計算モデル / NeuroML / シミュレーション |
研究実績の概要 |
微細な脳神経や血管の形状モデルの作成:微細な脳神経の形状モデル化を行う上で既存手法では脳幹外の脳神経束を開始点として選択しトラクトグラフィを作成し、形状データ化する手法がとられている。本研究では、開始点を指定するテンソルイメージにMRIT1画像を重ね合わせることで脳幹内の微細な神経束走行を脳幹内の神経核や神経束が走る領域などの微細構造を開始点として既存手法よりも精密に指定してトラクトグラフィを表示できるツールを開発した。 NeuroMLをもとにした神経細胞変性過程のモデル化:神経細胞や神経核、視床や扁桃体や海馬、大脳の各領域をコンポーネントとして定義し、その間の関係を刺激系と抑制系刺激に分けて有向グラフを用いて神経回路をモデル化し、NeuroML形式で出力できるソフトウエアツール(NeuroComponent Editor)を開発した。これを用いてDefault Mode Networkや脊髄視床路等の神経回路モデルを作成した。 神経血管の形状モデルと神経細胞変性過程の統合シミュレーションプラットフォーム技術開発:既存の神経系の統合シミュレーションは、ボトムアップ方式で神経細胞とシナプスを中心として作成する2次元モデルがほとんどである。このため、大脳全体の中の各皮質領域と視床や基底核、海馬、扁桃体のような構造間の3次元空間での表示できるモデル化は困難であった。本研究ではNeuroComponent Editorで作成した神経ネットワーク回路とそれを構成する脳神経構造を3次元表示できるツールを開発し、さらにその3次元空間内に大脳や視床等の構造をobj形式等で作成したものをインポートすることで、神経ネットワーク回路とそれを構成する各脳領域を3次元空間上で統合表示する統合型シミュレーションプラットフォームの設計と試作を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.脳内神経回路のネットワークモデルに関する研究開発:昨年度まで既知の神経回路情報と拡散テンソル画像情報を基に脳神経回路をモデリングできるツールを研究開発している。作成した神経回路モデルはNeuroMLで出力可能とし、再利用や拡張、編集可能とした。特にNeuroMLで定義されている複数のXSDのうち、神経回路などのネットワーク情報を定義しているLevel3で定義されたNetworkMLに準拠し、稼働環境はMac OSX及びWindows10の両方で可能とした。また、現状の機能に加え、脳活動コンポーネットの活動状態を間をつなぐネットワークでの刺激伝達の順序を有向グラフ属性としてモデル化できるツールを開発した。 2.脳内神経回路のネットワークの数理モデルに関する研究開発:神経回路の中の神経ネットワークの数理モデルの基礎理論には非線形データ解析理論、複雑ネットワーク理論、複雑制御理論があり、神経細胞の数理モデルとして有名な数理モデルにはHodgkin-Huxley方程式、シナプスの数理モデルにはkineticモデルや減衰・増強シナプスモデル等が提案されている。NeuroMLのlevel2のBiophysicsとChannelMLを用いこれらの複数のレベルの異なる脳内神経回路に数理モデルの統合記述に関する研究開発を行っている。 3.脳内神経回路ネットワークの4次元可視化に関する研究開発:海馬体と扁桃体を中心としたPapez回路とYakoblev回路についてNeuroMLの中のNetworkMLを用いた脳神経回路のモデリングに関する研究開発を行ってきた。さらに、現在の機能に加え脳回路を形成するネットワークに知覚コンポーネントを追加し、知覚刺激から認知に関係する回路とDefault Mode Networkに関する神経回路モデルの作成と神経変性シミュレーションに関する研究開発を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度まで研究開発してきたNeuroMLの中のNetworkMLを用いた脳神経回路モデル作成ツールを用いて錐体路や脊髄視床路等の神経束のネットワーク回路を刺激系と抑制系を含め作成してきた。これらの脳神経ネットワーク回路は、コンポーネントとコンポーネントが属するグループ、コンポーネント間を結ぶ刺激系線維束と抑制系線維束を模した有向グラフで構成され、脳神経ネットワーク回路を2次元のネットワーク構成図として表示させ、NeuroML形式で出力される。また、MRIデータから作成した3次元脳神経モデルを3次元空間に表示し、出力されているNeuroMLその3次元空間にインポートして両者を融合表示できるツールの改良を行う。本年度は、NeuroMLのlevel2のBipohysicsとChannelMLを用いて、これらの複数のレベルの異なる脳内神経回路の数理モデルの統合記述と可視化技術に関する研究をさらに発展させ、脳神経ネットワーク回路のコンポーネントをもとに神経細胞や神経核の活動や神経束、脳皮質活動を4次元的に可視化するモデルへの拡張を行う。現在までのNeuroMLはver.2.0であり、神経細胞活動を記述したものや細胞間ネットワークをモデル化したものが主である。これらをもとに視床や扁桃体、海馬などの神経伝達活動を可視化できるモデルへの拡張を目指す。具体的には現在のコンポーネント機能を拡張しNeuroMLver2.0の中の標準仕様のlevel1にある形態を記述する仕様であるMorphMLをもとに神経細胞や神経核等の形状や活動を定義できるようにする。これらで作られた神経系の活動をマルチスケールモデルとし、神経変性等の時系列変化を動的に3次元空間上のモデルで神経活動と神経伝達の状態をモデル化し、3次元空間で可視化できる統合型シミュレーションプラットフォームの開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表のための旅費を計上していたが震災等のために取りやめ、人件費・謝金については海外研究者との意見交換を予定していたが取りやめたため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の最終年度であり、研究成果を国内外の関連学会に発表するための旅費や論文校正費用に充当する予定。
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