研究課題/領域番号 |
25281008
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
磯部 友彦 独立行政法人国立環境研究所, 環境健康研究センター, 主任研究員 (50391066)
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研究分担者 |
山田 格 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 終年名誉研究員 (70125681)
田島 木綿子 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (00450635)
松石 隆 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (60250502)
天野 雅男 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (50270905)
国末 達也 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90380287)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境分析 / 海洋生態 / 保存試料 / 漂着鯨類 / POPs候補物質 / 生物濃縮 / 経年変動 |
研究実績の概要 |
本研究では、日本沿岸に死亡漂着した鯨類を海洋生態系汚染の指標生物試料として活用し、化学物質による汚染実態とその地理的分布,経時的変動の解明、および化学物質が鯨類の健康に及ぼす影響の評価を目的とする。平成26年度は、引き続き全国各地におけるストランディング情報の集約と試料収集,病理解剖のネットワーク拡充を進め、スナメリやネズミイルカ、イシイルカ、オウギハクジラ、スジイルカ、カズハゴンドウなど数種の漂着鯨類を収集し、愛媛大学es-BANKにアーカイブ試料として冷凍保存した。漂着に関する情報は、国立科学博物館およびストランディングネットワーク北海道のHPを通じて公開されている。また、各地のストランディング現場や愛媛大、国立科博、北海道大、長崎大で解剖ワークショップを開催し、種同定,バイオメトリー計測,寄生虫感染,病理観察、および化学物質の分析を実施した。前年度に鹿児島県で大量座礁したスジイルカについては、一部の既存POPs(PCBs, DDTs, HCHsなど)および新規POPsの臭素系難燃剤(PBDEs, HBCDs)の化学分析が終了しており、今年度は病理観察を進めるとともに歯による年齢査定を実施し、汚染物質の年齢蓄積性について解析を進めている。さらに、スナメリの個体数減少が懸念されている大村湾で調査を実施し、すべてのスナメリ脂皮試料から有機ハロゲン化合物を検出した。濃度はPCBs,DDTsが高値を示し、クロルデン化合物(CHLs)、HCHs、PBDEs、HBCDs、HCBの順で検出された。大村湾、有明海、瀬戸内海の3海域の個体群間で有機ハロゲン化合物濃度を比較したところ、HCHsとHCB濃度は大村湾の個体群において他の2海域に比べ低値を示した。PCBs、PBDEs、HBCDsについては餌生物に比べてスナメリの蓄積レベルが有意に高値を示し、これらの物質の生物濃縮を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、大量座礁した28頭のスジイルカを解剖調査し、多くの研究者,研究機関の研究材料として活用した。平成26年度は、引き続き全国各地で漂着鯨類の収集を進め、本研究課題の参画研究者の所属機関においてそれぞれ解剖ワークショップを開催した。ワークショップは、本研究課題以外の研究者の参加も募り、多岐に渡る機関,分野から多数の参加者を得た。これらの検体を活用することで、これまで国内では困難であった鯨類関連研究者間の分野横断的研究を進める機会を提供することができ、今年度は数多くの原著論文公表に繋がったと考えている。化学分析については、スジイルカおよびスナメリの分析を優先し、アーカイブ試料を活用することで既存POPsおよび新規POPsの汚染実態や蓄積レベルの経年変動に関して解析を進めている。これらと併行して、それぞれの種について病理観察を進めており、化学汚染が鯨類の健康に及ぼす影響の一端を明らかにできる可能性が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、鯨類漂着情報ネットワークの充実化とこれを活用した試料収集に努め、その存在が広く一般市民に浸透することを目指す。国立科学博物館やストランディングネットワーク北海道のホームページでは、既に漂着鯨類に関する情報が逐一公開されており、これらの基盤をさらに発展させて社会的な認知度の向上を目指す。また、愛媛大学es-BANKでも、収蔵検体情報をホームページで一部公開しており、これらのアーカイブ試料を活用した研究展開も期待される。ストランディング個体の収集も継続し、愛媛大、国立科博、北海道大、長崎大でそれぞれ解剖調査を実施する。その際に、病理観察、年齢査定や食性,栄養段階の解析、個体群動態,個体数変動調査、死因の推定などを実施して、鯨類の生理,生態に関する基礎情報を蓄積する。大村湾,有明海沿岸、瀬戸内海沿岸、北海道沿岸を中心に、採集した鯨類の漂着個体試料を化学分析に供試し、既存POPs,新規POPsを分析して蓄積レベルの経年変動や生物濃縮性、種間差、年齢,性別による蓄積パターン、汚染の地理的分布について解析する。さらに、ハロゲン化代替難燃剤やPFRsなどのPOPs候補物質の分析法を検討,改良し、新規環境汚染物質による海洋高等動物の汚染実態を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、前年に大量座礁したスジイルカの化学分析に多くの時間,労力を割いたため、他のストランディング現場への旅費や試料運送費用など、想定していた支出を抑えることができた。また、長崎での解剖調査は3月に、北海道での解剖調査は4月にそれぞれ予定されているため、助成金の一部を次年度以降使用分として繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は、引き続き国内各地でストランディング個体の収集・解剖調査を実施するための旅費、分析法確立のための試薬・標準品購入、化学分析および病理解剖・観察に係る消耗品に使用する計画である。また、成果発表のため、データ解析のためのPC等購入費および研究成果発表のための旅費などとして本研究費を活用する計画である。研究の進捗が順調なため、当初計画よりも大規模,広範囲な調査研究を展開し、新規性、インパクトの高い成果を国際学会、学術誌で発表することが期待できる。
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