研究課題/領域番号 |
25281011
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
大橋 瑞江 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (30453153)
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研究分担者 |
杉山 裕子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (40305694)
藤嶽 暢英 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50243332)
山瀬 敬太郎 兵庫県立農林水産技術総合センター, その他部局等, 研究員 (90463413)
高橋 勝利 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (00271792)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 水循環 / 水質 / 森林流域 / FT-ICRMS / 溶存有機物 |
研究概要 |
森林生態系における水循環は、渓流水の水質を調節する重要な役割を果たしている。しかし水質を決定付ける重要な因子である溶存有機物(DOM)は、複雑な生成メカニズムで生じる多様な炭素化合物の集合体であり、その分子組成や、組成変化に影響をもたらす要因を明らかにすることは技術的に困難であった。本研究では、森林生態系におけるDOMの組成とその変遷を明らかにするため、天然水の分析には殆ど用いられてこなかったフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析器(FT-ICRMS)など、化学分析を用いたDOMの分子種の推定によって、森林生態系の水質形成過程を明らかにすることを目的とする。ここでは、森林流域を流れる降雨、林内雨、樹幹流、土壌水、渓流水など森林生態系の水循環に関わる複数種の水に着目し、1) DOM構成種の変動パターン、2) DOM構成種の変動プロセス、について水質分析を実施する。 本年度は、兵庫県の中西部に位置する宍粟市一宮町東河内 針広混交林整備事業地で採取された降雨、林内雨、樹幹流、土壌水、渓流水をFT-ICRMSを用いて分析し、分子式の予測を試みた。その結果、降雨・林内雨から樹幹流・A層中部、A層下部以深で植物遺骸由来のDOMの酸化や、土壌における官能基を多く含む分子の除去などが生じていることが推定された。これらの結果から、FT-ICRMSは天然水においても溶存有機物の分子種を決定する高度な分析技術であることが示された。しかし一方でこの手法は、溶存している分子の一部しか分析できないこと、各分子種の量的評価が困難であること、などの限界を有していることも明らかとなった。したがって今後は、サンプル間の比較を可能とするために、スペクトル解析及びデータ解析の手法を検討していく必要があることや、FT-ICRMS以外の水質分析との併用が重要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
兵庫県宍粟市一宮町の針広混交林整備事業地(標高: 900m; 主植生: 50年生のヒノキ; 土壌: 黒ボク土)で採取された降雨、林内雨、樹幹流、土壌水(A層中部: 地下10cm・下部: 地下25cm、B層中部: 地下40cm・下部: 地下60cm)、渓流水を0.7 µmのGF/Fフィルターでろ過し、分析まで4度以下で保存し、FT-ICR MSを用いた分子式予測を行った。FT-ICR MS測定にはBruker Daltonics 9.4T APEX-Q 94e FT-ICR MSを使用した。C18固相抽出法によりサンプルを2倍に濃縮、脱塩したものをさらに適宜希釈し、測定した。検出はネガティブイオンモードでインフュージョン分析を行った。測定したマスレンジはm/z=187-1500、分子式の予測には、Molecular Formula Calculator v1.1を使用した。各サンプルの構成分子の特徴およびその変遷を明らかにするために、検出された分子式をその相対検出強度で重み付けし求めた重量平均O/Cw、H/Cw、各分子の二重結合、環構造の数を表す二重結合当量(DBEw)を求めた。その結果、降雨・林内雨は樹幹流・A層中部DOMと比べO/Cw及びDBEwが低く、H/Cwが高い値を示した。A層中部からB層下部にかけてDBEwに大きな変動はなかったが、A層下部以深でO/Cwは減少し、DBE/Owは増加した。よって、土壌層での植物遺骸由来のDOMの酸化や、酸素を多く含む分子の優先的除去が生じていると考えられた。予測した各分子の元素組成比から各サンプルに含まれる分子種を予想したところ、林内雨・樹幹流ではリグニン領域、タンニン様物質、脂質・タンパク領域が増加した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、フィンランド北方の森林流域を流れる水を、生態系の水循環機構に合わせて複数種の水に分類し、FT-ICRMS分析を行った後、これらの分析結果のデータ解析手法を検討することで、1)林内雨から渓流水に到るまでの水移動、2)空間的ばらつき、を定量評価する。また質量分析の結果と、無機イオン分析、DOC濃度分析の結果を併せて解析することで、溶存物質の空間変動の挙動メカニズムを明らかにする。 1)林内雨から渓流水に到るまでの水移動:これまでに取得した質量分析データの中から、フィンランド・カンガスファーラ森林流域で4月と5月に取得した7種の水サンプルについて、総分子数とLipids、Proteins、Aminosugars/Carbohydrates、Unsaturated Hydrocarbons、Lignins、Tannins、Condensed Aromtic Structuresの7種の機能群における分子数を求める。これらの結果から、森林生態系における溶存物質の全体的ばらつきと、森林特有の機能群の特徴を把握する。 2)空間的ばらつき:1)で得られた総分子数、機能群ごとの分子数について、降雨、降雪、林内、土壌水、地下水、渓流水、湖水の7つの採取場所間での違いを多変量解析を用いて評価する。ここで、質量分析で得られる分子女王は、溶存分子のごく一部であることを鑑みて、解析は分子の実数と分析で検出された総分子数で標準化した数の2種類を用いて検討する。さらに、異なる場所、時間で共通する分子数を抽出することで、溶存有機物の保存性を、機能グループごとに検討する。 上記の解析に加えて、すでにこれまでの試験地で得られているサンプルを用いて無機イオン、DOC濃度などの化学分析を実施し、全体を統合して多変量解析を行うことで、水質の変動メカニズムについて、有機と無機の両方の物質を考慮した解析を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度はじめ(4月下旬)に現地協力者のフィンランド森林研究所の研究者が来日することとなり、研究打ち合わせ旅費を支出する必要性が生じた。しかし次年度予算はまだ使用できないため、今年度予算の一部を次年度に回して使用することとした。 物品費:すでに取得中の水サンプルの化学分析を実施するための試薬、分析費用などが必要になると予想される。旅費:これまでの取得したデータを解析し、成果としてまとめるための研究打ち合わせ旅費、成果発表のための学会参加費の支出を予定している。学会参加については、10月に行われる国際森林会議(USA)や3月に行われる森林学会(場所未定)などへの参加を予定している。人件費・謝金:FT-ICRMSで得らえたスペクトルデータをキャリブレーションし、スペクトル解析するために必要な解析補助にかかる人件費を支出する予定としている。その他:これまでの成果を論文発表する際の英文校正代金の支出、投稿費用などを支出する予定である。
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