研究課題/領域番号 |
25281011
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
大橋 瑞江 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (30453153)
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研究分担者 |
山瀬 敬太郎 兵庫県立農林水産技術総合センター, その他部局等, 研究員 (90463413)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | FT-ICRMS / 水循環 / 水質 / 溶存有機物 / 森林流域 |
研究実績の概要 |
森林生態系における水循環は、渓流水の水質を調節する重要な役割を果たしている。しかし水質を決定付ける重要な因子である溶存有機物(DOM)は、複雑な生成メカニズムで生じる多様な炭素化合物の集合体であり、その分子組成や、組成変化に影響をもたらす要因を明らかにすることは技術的に困難であった。本研究では、森林生態系におけるDOMの組成とその変遷を明らかにするため、天然水の分析には殆ど用いられてこなかったフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析器(FT-ICRMS)など、化学分析を用いたDOMの分子種の推定によって、森林生態系の水質形成過程を明らかにすることを目的とする。 本年度は、FT-ICR MSで得られるマススペクトルからノイズを除去するための条件を検討し、取り出した分子ピークについて、分子式の候補を算出したのちに、分子の条件を設定して候補を絞っていくための計算プログラムの開発を行った。同一サンプルをFT-ICR MSの同一条件下で繰り返し測定したときのエラーについて検討したところ、最大30%のエラーが生じることが明らかとなった。したがってサンプルの代表値を得るためには、一回の測定では不十分であり、測定を複数回繰り返して、その結果得られる分子種の総数を求めるなどの工夫が必要となることが明らかとなった。またwordとion accumulationの2つのパラメータを変更してその結果を比較、検討することで、天然水を分析する際のFT-ICR MSの最適なパラメータを決定した。さらにサンプルの前処理、スペクトル解析、分子データの処理、分子の絞り込み、同一分子の抽出についての一連の作業をマニュアル化及び一部をプログラム化し、より精度の高い分析手法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、以下の要領でFT-ICR MS分析で起こり得るエラーの評価、及び分析パラメータの検討と一連の作業のマニュアル化を行った。 1)同一サンプルを同一条件下でFT-ICR MS分析した場合の誤差の定量:純水、降雨、フィンランド土壌水を用いて、同一サンプルを同じパラメータ設定で繰り返しFT-ICR MS分析を行った。その結果、純水については、550分子中の200分子が、降雨については4000分子中の500分子が、フィンランド土壌水については3000分子中の1000分子が互いに異なっており、同一サンプルであっても測定結果にエラーが生じることから、サンプルの代表値を得るには繰り返しサンプルを分析する必要があることが示された。 2)FT-ICR MSの各種パラメータを変更した場合の結果の違い:FR-ICR MS分析で必要なwordとion accumulationの4つのパラメータを変更して結果を比較した。これらのパラメータの変更によって補足される分子数がどの程度変化するかを検討し、最適なパラメータを決定した。 3)水サンプル及びFT-ICR MSスペクトルデータの処理のマニュアル化、データ解析のプログラム化:フィールドで取得した水サンプルは、その後、ろ過、pH調整、固相抽出、エタノール抽出といった処理を行った後に分析にかけることとなる。ここではこれら一連の作業のマニュアル化を行い、実施手順の確立とヒューマンエラーの防止を図った。また、FR-ICR MS分析で得られたスペクトルデータは、その後、分子ピークの抽出と分子構造の特定、共通分子の抜き出しなど一連の処理を行っていく。そのために必要なプログラムの作成や作業のマニュアル化を行った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果から、フィールドでの水サンプルを分析する際に懸念とされていたデータのバラつきの程度を定量し、FR-ICR MS分析を行う際の測定手法について、より精度の高い手法を確立することが出来た。今後はこの手法を用いて、フィンランド北方林の森林流域を流れる水について、水質の形成メカニズムを評価する。土壌中の難分解性成分は一般に土壌有機物の分解産物である場合が多く、森林のリター構成物質と深いかかわりがあることが示唆される。ここでは降雨から土壌水の至る一連の水循環におけるリター由来の物質変化を明らかにするとともに、リター抗生物質や難分解性成分の異なる複数林分土壌を対象とし、土壌水を比較することで水質形成におけるリターの重要性を評価する。また、これまでの実験により、樹木から溶脱する有機成分が、水質形成に関与していることが示された。そこで、森林の植物群落の構成部分ごとをグルーピングし、これらの構成部分が水質にどう関わるかを評価するための水サンプルの採取を行う。グルーピングの際は、有機成分を算出する単位として林内雨に着目し、針葉樹林と広葉樹林の二つのタイプの森林を対象に、林内雨と林外雨を同時に採水し、両者を比較することで林冠部の寄与と森林タイプによる寄与度の変化を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
FT-ICR MSの分析の測定条件の検討が、フィールド調査に先駆けて急務に必要となったため、今年度は測定条件の検討をメインに行い、フィールドでの水サンプルの採取と分析は、次年度に持ち越された。そのため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費:水サンプルを取得するための試薬、採水ボトル、ろ過装置などの費用などが必要になると予想される。旅費:現地にいって採水するための旅費、打ち合わせ旅費の支出を予定している。人件費・謝金:FT-ICR MSによる分析を外部委託するためにかかる経費が必要になると予想される。また、FT-ICR MSで得らえたスペクトルデータをキャリブレーションし、スペクトル解析するために必要な解析補助にかかる人件費を支出する予定としている。その他:これまでの成果を論文発表する際の英文校正代金の支出、投稿費用などを支出する予定である。
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