研究課題/領域番号 |
25281013
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
小川 奈々子 独立行政法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 主任技術研究員 (80359174)
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研究分担者 |
吉川 知里 独立行政法人海洋研究開発機構, 生物地球化学研究分野, 技術研究員 (40435839)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 光合成色素 / クロロフィル / 窒素同位体 / 海洋物質循環 |
研究実績の概要 |
平成26年度における試料採取はほぼ予定通り完了し、硝酸態窒素とクロロフィルの安定同位体比測定が実施された。懸濁粒子中のクロロフィル色素についても、概ね順調に試料処理と安定同位体比分析のプロセスが進行中である。本年度採取した試料についての硝酸態窒素同位体比測定は全て完了し、濃度・安定同位体比の双方に於いて、詳細な鉛直プロファイルが得られた。硝酸態窒素を含む無機態窒素の情報は、植物プランクトンにおける光合成の基質情報となり、クロロフィル色素の窒素同位体比情報と共に、定量的な海洋窒素循環モデルのための主要情報となる。 平成26年度は海洋中のピコプランクトンの単離分析技術についての技術開発試験も実施された。貧栄養海域にて光合成を担うシアノバクテリアは、ガラス繊維ろ紙を用いた従来手法では捕捉が困難であり、ピコプランクトン類の捕集と単離の手法確立は、貧栄養海域の窒素循環研究において特に重要性を増す。一方、いわゆる微生物研究を目的に開発された既存の手法は、試薬等に窒素や炭素を含むことが多く、安定同位体比を用いた研究には適さない。平成26年度は特に「安定同位体比分析に干渉せず、本来の作業性や有効性を阻害の少ない代替試薬類」の選定を目的に、凍結・濃縮・試料単離の各前処理手法等において検討が重ねられた。検討結果を経て、S1地点の海水試料について実施された試験分析では、セルソーターを用いて分離された真核生物と原核生物のそれぞれについて同位体比測定を行い、炭素安定同位体比データを得ることが出来た。 このような微細試料採取の新技術は、超微量安定同位体比技術とを合わせることでより深い情報となることが予想され、化合物レベルでの安定同位体比情報と共に、物質循環や生態環境の分野だけでなく、生化学分野にも新しい可能性を生み出す礎になることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた試料は順調に採取が完了し、クロロフィルおよび硝酸態窒素同位体比等の分析も順調に進行している。 微小サイズの光合成生物に関する試料採取技術の試験も実施され、安定同位体データを得るために必要な前処理条件等について、一定の成果が得られた。 以上より、平成26年度までの研究の進展はおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果に沿い、平成26年度までに採取された試料および平成27年度に追加で入手予定の西部北大西洋試料について、クロロフィル窒素および、無機態窒素の安定同位体測定を実施し、窒素同位体モデルの進化を図る。 平成27年度の西部北太平洋での試料採取においては、本年度試験を行った2種類の海水中微小光合成生物分画手法の、現場実験を実施する。ここでは近年進化の著しい海洋水中からの微小光合成生物の採取および単離の新技術と超微量安定同位体比技術とを合わせた研究を念頭に、新しいタイプの安定同位体試料の獲得と、これによる新たな安定同位体知見を得ることを予定している。海洋光合成生物に関する研究手法の開発は、生元素同位体比を用いた物質循環や生態環境はもとより、微生物を用いた生化学分野の研究にも新しい可能性を生み出すことが期待される。 基本的な研究体制に変更はない。平成27年度も、海洋試料の採取は分担者が、有機態窒素の同位体比測定と解析は代表者、無機態窒素測定と物質循環モデルの構築は分担者が、それぞれ実施する。得られたデータの全体での検討と解析・解釈は、逐次、代表者と分担者とで議論しつつ行う。得られた成果は順次、学会や論文の形で公表予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進展過程で予測と異なる結果が得られたことから、一部の試薬・実験器具について購入の是非を判断するための追加の検証実験を実施した。 実験結果が得られた時点では、申請者の所属機関における平成26年度内の取得手続きがほぼ終了となっていたため、平成27年度に繰り越して使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の目的通り、本研究の試料採取、前処理および安定同位体測定に必要な器具及び試薬等の購入に使用する。
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