研究課題
これまでに千歳川・尻別川・音威子府川において採取したカワシンジュガイ殻を染色して成長線の計数を行うと共に、放射光を用いた微量元素分布ならびに化学形態分析の結果を統合して、古環境指標としての各微量元素の可能性を検討した。昨年までの分析において、硫酸形態をもつ酸化硫黄は、5から10年の周期で、通常の10倍近くの濃度で取り込まれていることが明らかとなっている。この現象は、殻の蝶番部において特異的に見られることから、砂地との接触により殻が破損し、炭酸塩が河川中に溶解することを防ぐことを目的とした生物的な効果であると考えている。硫酸の取り込みは、何らかの生息環境の変化がトリガとなっていることも考えられることから、各試料の染色分析による年代特定と放射光分析結果を総合して解析を行った。しかしながら、同一地域から採取した試料においても明確な形成時期の相関は見られず、広域的な環境変動よりも各生物個体の活性や生息環境の影響が強いとの結論が得られた。また、各河川から採取した試料の微量元素濃度を比較したが、河川の栄養塩濃度の違いと硫黄・リンの含有量には直接的な相関は見られなかった。これらの元素の分布には成長線に対応した明確な構造が見られることから、季節変動が記録はされているものの、生物的な影響が強いことが示唆された。カワシンジュガイ以外にも、エゾイガイ・クロチョウガイ・ホタテなど、さまざまな二枚貝殻中の微量元素分布についても網羅的な分析を行った。その結果、微量元素濃度が低い河川に生息する二枚貝に対して、塩分濃度が高い海洋に生息する種において、殻中に高濃度の微量元素を検出できた。また、これまでに知られている元素に加えて、塩素が高濃度で含有されている個体が多く、また塩素分布はリンや硫黄と良い対応を示すことが明らかとなり、塩素もまた栄養塩導体の良い環境指標となる可能性が示唆された。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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