研究課題
基盤研究(B)
環境中の化学物質や放射線などによるDNAの損傷は、ゲノム不安定化の原因となる。ゲノムの不安定化は、発ガンや遺伝的影響の要因となり、ゲノムの安定維持機構の解明が急がれる。我々は、クロマチン制御-DNA修復の連携によるゲノムの安定維持機構を、「ゲノム恒常性維持マシナリー」と定義し、その解明を行なう。これまで、遺伝学アプローチによりゲノム恒常性維持マシナリーの各因子の機能解明を行なってきたが、個別のタンパク質の研究では、全貌を俯瞰するような知見を得ることは不可能であった。本研究では、SILACという手法を用い、プロテオミクスと遺伝学手法を融合させ、ゲノム恒常性維持マシナリーの全貌解明を目指す。具体的には、ゲノム不安定化の現場に動員されるタンパク質をプロテオミクスアプローチで、網羅的に同定する。この時SILAC手法で、野生型細胞と染色体不安定化を示す変異体細胞を比較する。この遺伝学的比較により、どのようなシグナル経路がどのタンパク質の、ゲノムの損傷現場への動員を誘導するのか全貌解明する。昨年度は、計画初年度であり様々な実験条件の最適化や、実験に必要のデータベースの整備を行った。昨年度はSILACをニワトリBリンパ球DT40細胞用に最適化した。さらに、蛋白質が95%以上安定同位体で標識できており、質量分析装置によって、ペプチドの質量の違いを実際に検出できる事を確認した。ニワトリのユニプロット蛋白質データベースは、ヒト用のデータベースに比べたいへん規模が小さく、蛋白質同定の妨げになる事が予想された。そこで、DT40細胞のトランスクリプトームをディープシーケンスした。 その結果、高品質の(従来よりも同定率が70%上昇)蛋白質データベースを作製する事が出来た。来年度以降のSILACによる染色体の向上し維持マシナリーの同定の準備状況は良好である。
2: おおむね順調に進展している
予定していた、質量分析装置の最適化、細胞の安定同位体標識の最適化がほぼ終える事が出来た。昨年度中までに、ニワトリ用の高品質の蛋白質データベースを作製する事にも成功している。今年度以降の、SILACによる染色体の恒常性維持マシナリーを同定するための準備はおおむね順調に進んでいる。
昨年までに確立したSILACやiPONDの手法を用いて、複製がDNA損傷部位で停止した時に複製フォークに動員される蛋白質の網羅的解析を今年度に実施する。複製停止からの回復機構には、損傷乗越え機構が中心的な役割を果たす。この時、ポリメラーゼηとζがともに共同して働く事が知られている(Hirota et al 2010 Plos Genetics)。一方、ポリメラーゼηとζがともに欠損しても他の回復機構がその役割を置き換えるため、ポリメラーゼζのみ欠損した場合よりも、細胞生存率が高くなる。今年度は、ポリメラーゼηとζがともに欠損している細胞と野生型の細胞を比較して、どのような蛋白質がどのような時間に複製フォークの損傷部位に動員されてくるのか解明する。この研究によって、損傷に動員されるプロテオームが理解できる。さらに、ηとζがともに欠損しているときの細胞の生き残り戦略を理解できる。
25年度予定していた国内出張が延期になったため。延期になった国内出張を行う予定である。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件)
Proc Natl Acad Sci U S A.
巻: 111(6): ページ: 2253-8
10.1073/pnas.1324057111
Cancer Research
巻: 74(3) ページ: 797-807
10.1158/0008-5472.CAN-13-1443.
Arch Toxicol
巻: 88(1) ページ: 145-60
10.1007/s00204-013-1084-7.
巻: 73(14) ページ: 4362-4371.
10.1158/0008-5472.CAN-12-3154
Sci Rep
巻: 3, 2022. ページ: 2022
10.1038/srep02022
PLOS ONE
巻: 8(4):e60043 ページ: e60043
10.1371/journal.pone.0060043