研究課題
基盤研究(B)
研究代表者は,遺伝子ターゲティングを利用してDNA付加体1分子をヒトリンパ芽球細胞TSCER122(TK6細胞由来)のチミジンキナーゼ遺伝子(TK)のイントロン4,あるいはエキソン5にゲノム導入させ,その付加体の運命を定量的に解析できる系(Tracing DNA adducts by targeted mutagenesis; TATAM)をすでに確立している。これまでの実験の結果,8-オキソグアニン付加体1分子をイントロンに導入した時はTK変異が起きるが,エキソンのある部位に導入した時はTK変異が起きない(あるいは低減する)ことを示すデータが得られた。仮説として,そこには遺伝子変異誘発機構の緻密性が存在するのではないかと考えた。よって本研究の目的は,まずその機構で働くと予想されるDNA修復遺伝子を破壊したTSCER122細胞を樹立し,TATAM系を駆使して付加体1分子が関わる緻密な遺伝子変異誘発機構を明らかにすることである。本研究計画は,次の3つの実験に大別される。①TKのイントロン4とエキソン5にそれぞれ付加体1分子を導入したときのTK変異頻度を比較すること,②アミノ酸配列変異に関与するエキソン5のあるコドンに付加体1分子を導入し,コドン間でTK変異頻度を比較すること,③先の2つの実験について付加体ごと,そしてTKの転写鎖・非転写鎖ごとに比較することである。このように,TATAMは外来ではなく内在性の遺伝子に対して,部位特異的解析を可能にしている。平成25年度は,キサンチンDNA付加体1分子をTKのイントロン4とエキソン5のある部位にそれぞれ導入し,そのTK変異頻度を解析した。その結果,両部位とも遺伝子変異誘発頻度(約20%程度)が類似しており,先の8-オキソグアニンの結果とは異なっていた。今後,さらに再現性の確認と遺伝子破壊細胞を用いたTATAM解析を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画通り,キサンチンDNA付加体1分子をゲノムの特定部位に導入し,その遺伝的影響を解析した。また,ZFNを用いて,塩基除去修復機構に関与するDNAポリメラーゼβの遺伝子破壊細胞クローンを分離した。
申請時の研究計画では,遺伝子破壊細胞を構築するために,ZFNやTALENを利用する予定だったが,現在は,それらより低コストのCRISPR/Cas9のシステムがキットとして市販されており,本研究で用いるDNA修復関連遺伝子をこのシステムによって破壊可能かどうかを現在実験中である。これを確認できれば,当初の計画よりも多い遺伝子破壊細胞を作製することができる。その一方,当初の研究計画通り,ZFNを用いて塩基除去修復に関与するDNAポリメラーゼβの遺伝子破壊細胞のクローンを分離できたため,その表現型の確認,およびその破壊細胞を用いたTATAMを実施する予定である。もし,その破壊細胞でエキソン部位の付加体が遺伝子変異誘発頻度を上昇させれば,DNAポリメラーゼβがその緻密な遺伝子変異誘発機構に関わっていることを証明できると考えられる。遺伝子変異誘発機構の緻密性に関する再現性の確認について,エキソン系の検出感度が問題となっている可能性が未だ否定できないため,誤塩基対形成頻度がキサンチン付加体よりもさらに高い付加体について,文献調査し,再実験する必要がある。
実験を効率的に実施したこと,および容器や試薬類を割引期間中に購入したこと等の工夫により,実験コストを下げることができたため。引き続き,効率的な実験を行い,本次年度使用額は主に消耗品として利用される。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
DNA Repair
巻: 15 ページ: 11-20
10.1016/j.dnarep.2014.01.003.
巻: 15 ページ: 21-28
10.1016/j.dnarep.2013.12.008.