研究課題/領域番号 |
25281023
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
黄 基旭 東北大学, 薬学研究科(研究院), 講師 (00344680)
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研究分担者 |
高橋 勉 東北大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00400474)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | メチル水銀 / オートファジー / 毒性 |
研究実績の概要 |
メチル水銀はリソソーム膜上で機能するRagulator-Rag複合体(RR複合体)の機能を抑制することによってオートファジーを誘導する可能性が示唆されている。RR複合体構成因子であるLAMTOR3(昨年度報告済み)に加えてLAMTOR2の細胞内レベルもメチル水銀によって著しく減少し、これらの減少に両蛋白質のmRNAレベルの変動は関与していないことが判明した。また、蛋白質合成阻害剤の存在下において、メチル水銀は両蛋白質の安定性を低下させ、これらの低下はプロテアソーム阻害剤の添加によってほとんど認められなくなった。これらのことは、メチル水銀によるLAMTOR2およびLAMTOR3のレベルの減少にユビキチン・プロテアソームシステムが何らかの形で関与していることを示唆している。 RR複合体はリソソーム膜上に存在し、オートファジー抑制因子であるmTORC1の活性化に関与している。メチル水銀がmTORC1の活性に与える影響をmTORC1の基質であるUlk1のリン酸化レベルを指標に検討したところ、メチル水銀によってUlk1のリン酸化レベルが低下した。また、メチル水銀はmTORC1を正に制御するAktのリン酸化を促進させ、mTORC1を負に制御するAMPKのリン酸化を低下させた。このことは、メチル水銀によるmTORC1の不活性化にPI3K-Akt経路とAMPKが関与していないことを示唆している。一方、LAMTOR複合体の構成因子をそれぞれノックダウンさせたところ、mTORC1活性の低下が認められた。以上の結果から、メチル水銀はLAMTOR複合体の細胞内レベルを低下させることによってmTORC1を不活性化し、オートファジーを誘導している可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、メチル水銀がオートファジーを過剰に誘導することによって細胞毒性を引き起こしており、本作用にオートファジー抑制因子であるRR複合体の機能低下が関与していることを証明するとともに、メチル水銀によるRR複合体の機能低下に関わる分子機構を明らかにするものである。これまでに、RR複合体構成因子であるLAMTOR2およびLAMTOR3の細胞内レベルがメチル水銀によって著しく減少し、この減少がメチル水銀によるオートファジーの誘導に大きく関与していることを見出している。また、メチル水銀によるRR複合体構成因子の細胞内レベルの減少に選択的な蛋白質分解系であるユビキチン・プロテアソームシステムが関与していることも明らかにしている。この知見はメチル水銀によるRR複合体の機能低下に関わる分子機構を明らかにする上で重要な手がかりになると期待されることから、本申請者は当初の目標を向けて順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
メチル水銀によるLAMTOR2およびLAMTOR3のレベルの減少にユビキチン化を介したプロテアソームでの分解が関与している可能性が示唆されている。そこで、両蛋白質のユビキチン化に関わる分子機構を解明することを目的とし、下記の検討を実施する。1. RR複合体構成因子のユビキチン化:それぞれのC末端に異なるタグを融合したRR複合体構成因子を発現するプラスミドを作製した後に、タグに対する抗体を用いた免疫沈降法によってユビキチン化の有無を確認する。2. ユビキチン化部位の特定:構造中に存在するリジン残基をアラニンに置換した変異体を作製することによってユビキチン化に関わるリジン残基を特定する。3. ユビキチン化に関わる因子の同定:プロテアソーム阻害剤存在下で得られた抽出物を用いて免疫沈降法を行うことによってRR複合体構成因子のユビキチン化に関わるユビキチン化関連因子を同定する。また、同定された因子とLAMTOR2およびLAMTOR3との関わりについて様々な生化学的・分子生物学的な手法を用いて検討する。 RR複合体は、リソソーム膜上に存在するLAMTOR1にLAMTOR2およびLAMTOR3が順に結合することによって形成される。メチル水銀によってLAMTOR1のレベルは変動せずLAMTOR2およびLAMTOR3のレベルが減少した。このことは、メチル水銀によるRR複合体の解体が両蛋白質のレベルの減少の引き金になっている可能性を示唆している。そこで、メチル水銀がRR複合体構成因子間の結合に与える影響を免疫沈降法を用いて検討する。また、メチル水銀によるRR複合体の解体が認められた場合は、それに関わるメチル水銀の作用点について様々な生化学的・分子生物学的な手法を用いて検討する。
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