昨年度までの検討により、神経芽腫細胞においてメチル水銀がオートファジー抑制因子であるRagulator-Rag複合体(RR複合体)構成因子の細胞内レベルを低下させることによってオートファジーを誘導する可能性が示唆されている。そこで本年度は、プラスミドの導入などが簡便なHEK293細胞を用いて、メチル水銀によるオートファジー誘導機構について詳細に検討した。HEK293細胞をメチル水銀で処理したところ、神経芽腫細胞と同様に、処理濃度および処理時間に依存してオートファジーが誘導された。また、メチル水銀によるRR複合体構成因子(Ragulator1、2、3)のレベル減少は、プロテアソーム阻害剤およびリソソーム阻害剤の前処理によってそれぞれ抑制された。このことは、メチル水銀によるRR複合体構成因子の分解にユビキチン・プロテアソーム系とリソソーム系が共に関与することを示唆している。次に、Ragulator1-PA、Ragulator2-MycおよびRagulator3-V5を発現するプラスミドを導入したHEK293細胞をメチル水銀で処理したところ、Ragulator1-PAおよびRagulator2-Mycのレベルの低下が認められた。そこで、Ragulator1-PAおよびRagulator2-Mycのユビキチン化を免疫沈降法により検討したところ、いずれもプロテアソーム阻害剤存在下においてプロテアソームによる分解シグナルであるLys48(48番目のリジン残基)を介したポリユビキチン化のレベルがメチル水銀処理によって増加したのに対して、Lys63(63番目のリジン残基)を介したポリユビキチン化のレベルはほとんど変動しなかった。これらのことから、メチル水銀はRR複合体構成因子のLys48ポリユビキチン化を介したプロテアソームでの分解を促進させることによってその機能を抑制し、この作用がメチル水銀によるオートファジー誘導に関与する一因であることが明らかになった。
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