研究課題/領域番号 |
25281036
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
末包 哲也 東京工業大学, 総合理工学研究科(研究院), 教授 (30262314)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多孔質 / 物質輸送 / 溶解 / 比表面積 / 空隙スケール |
研究実績の概要 |
多孔質内物質輸送は,CO2地下貯留における多孔質内にトラップされたCO2の地下水への溶解や重金属などの汚染物質による土壌汚染にみられる現象である.地下貯留において毛管力により残留ガストラップされたCO2の気泡は,水より濡れにくいので多孔質内で空隙の広い部分を占めようとする.トラップされたCO2気泡は周囲の孔隙水と直ちに飽和し,溶解平衡状態となる.孔隙水が流動していない場合,CO2気泡の溶解は孔隙水の中でのCO2分子拡散により支配される.一方,孔隙水に流動がある場合,溶解平衡状態にある飽和水が移流により取り除かれ,新たな孔隙水が供給されるために,対流が支配的な物質輸送現象が生じる. 多孔質内部にトラップされているCO2気泡による流動している孔隙水での物質輸送現象は,その流動様式に関連する物質伝達係数とトラップされているCO2気泡の比表面積の影響を受ける.従来の研究では,これら2つの因子を区別して評価することが困難であった. 本研究では,X線CT装置を用いることにより,多孔質内部の物質輸送現象を空隙スケールで可視化することにより,物質輸送を支配する物質輸送係数と比表面積を独立に評価することを試みた.空隙スケールにおける物質輸送現象の特徴を明らかにするとともに,物質輸送に与える流速の影響を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はまず,既設のX線CT装置の受光パネルの増強を行い,計測時間の短縮と高解像度化を行った.これに伴って,過渡的な現象の把握が可能になった. 本年度は,増強されたパネルを用いて高速撮像により初めて観察が可能となる,多孔質内部の物質輸送現象の解明を行った.実験では,トラップ現象を断続的に測定することができ,比表面積と物質伝達係数を各々求めることができた.比表面積については,本実験の範囲で流速に依存していないことからトラップのされ方は,同じであったと考えられる.物質伝達係数から求めたシャーウッド数とレイノルズ数の関係については,実験式を求めることができた.また,シャーウッド数は注入方向に対して上方向では,飽和率依存性が見られるのに対して下方向では,見られなかった.これは,水を溶解したときの比重の変化が影響していると考えられる.今回得られた実験式を用いて数値シミュレーションを行い,本実験を再現することが出来ると考えている.これによって,従来の定式化で無視した項の影響を知ることができると考えられる. また,受光パネルの増強により,多孔質内部の超臨界CO2の直接可視化が可能になる.本年度は岩石多孔質内部の超臨界CO2の物資輸送現象計測に関する予備的な試験を行い,地下1000mに相当する高温高圧条件にて,超臨界CO2と水との物質輸送の可視化に成功した.このように,当初の予定をやや上回るペースで研究は進捗しており,来年度は本格的な物質輸送の解明を行う.
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今後の研究の推進方策 |
二酸化炭素(CO2)地下貯留技術の安全性の評価に必要不可欠となる岩石多孔質内部でのCO2の移動・溶解・対流などのトラップメカニズムに関する物質移動現象を解明する.昨年度までに,CT装置に新規X線検出パネルを導入し,撮像時間の短縮を達成した.これにより,多孔質内部の物質伝達現象を高時間解像度で撮像することが可能になった.今後は,物質伝達後の現象である,多孔質内部の密度差対流現象に注目する.CO2地下貯留では,地下の貯留したCO2は地下水に溶解する.CO2が溶解した地下水はわずかに重くなり,密度差に伴った大規模な自然対流を生じると言われている.これまでに多孔質内部の自然対流現象は多孔質の不透明さにより,二次元モデルの実験がほとんどであった.本研究では,三次元多孔質における密度差対流現象の可視化を試みると共に,対流物質輸送のモデル化を行う.
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