研究課題
CO2が水に溶解するとわずかに重くなるために貯留層のスケールで大規模な自然対流が発生するといわれている.溶解に要する時間の推定には貯留層シミュレーターが用いられ数100年から数1000年の時間が必要であると考えられている.一方で,これらの推定精度には密度差自然対流を拡散現象で近似したモデル化に強く依存している.本研究では,多孔質内部3次元密度対流の可視化を行い,フィンガー構造の特徴を明らかにすると共に,物質輸送現象に対して分散現象が大きく寄与していることを明らかにした.密度差自然対流において,界面における不安定性が成長するまでに要するオンセットタイムが存在する.発達した不安定性により,界面にはフィンガー構造が現れ,重力により成長する.次のような非線形効果が観察された.すなわち,フィンガーは互いに合体したり,先端が分裂したり,あるいは,先に成長したフィンガーにより他のフィンガーが遮蔽される.フィンガーの数密度はレイリー数と共に増加する.これは,線形安定理論の予測と一致する.フィンガーの進展速度,質量流束,および,オンセットタイムはレイリー数により変化する.しかし,これに加えて分散がフィンガーの進展に大きく寄与しており,分散によりオンセットタイムは短くなり,質量流束は増加する.従来の予測より,地下におけるCO2の溶解は速く進展する可能性があることが見いだされた.
1: 当初の計画以上に進展している
二酸化炭素地下貯留におけるCO2の地下水の溶解は可視化が困難であることから従来,2次元の多孔質媒体で実験が行われてきた.本研究では,メチレングリコールとアルコールの混合液と水の間の非線形密度特性およびヨウ化ナトリウムによるドーピングを組み合わせることにより,3次元多孔質内部二おけるレイリー・ベナール対流をX線CT装置により可視化することが可能であるとの着想に至った.本年度は,このアイディアを実現・実証に成功し,世界で初めてレイリー・ベナール対流の構造を明らかにした.これらの結果は国際会議にて当該分野の研究者から非常に高い評価を受けると共に,高いインパクトファクターを有する論文誌にて現在査読を受けている.また,当初の実施予定であった,レイリー・テイラー対流の可視化においても予定通りの研究開発を行い,対流の進展には従来考えられていたレイリー数が寄与するだけでなく,分散が大きく影響しているという知見を見いだした.これは,従来の予測より,地下におけるCO2の溶解は速く進展する可能性があることを示唆しており,非常に重要な発見である.
二酸化炭素(CO2)地下貯留技術の安全性の評価に必要不可欠となる岩石多孔質内部でのCO2の移動・溶解・対流などのトラップメカニズムに関する物質移動現象を解明する.昨年度は溶解トラップを促進する貯留層内部の自然対流現象の発生に関する研究を行い,対流発生時間および対流速度,物質輸送特性に多孔質内部における分散現象が非常に強い影響を及ぼしていることを見いだした.これは,従来定説として考えられていた,CO2の溶解に要する時間が大幅に短縮できる可能性を指摘しており,極めて重要な知見である.本年度は,対流の発生により生ずる流れにより,多孔質内部にトラップされているCO2気泡と流動の間の物質輸送現象に着目した現象の解明とモデリングを行う.また,デジタルコア技術の早期実用化を見据えて,格子ボルツマン法を用いた流動解析手法を開発し,多孔質内部の物質輸送特性の解明を行う.高速高解像度X線CTと数値解析手法を高度に融合することにより,地下貯留に関するデジタル・コア・ラボラトリー拠点の形成を目指す.これまでに開発を行ってきた格子ボルツマン法による多孔質内混相流解析コードを用いて,多孔質内部におけるCO2のトラップ現象を再現する.引き続いて,トラップされた気泡回りの流れを物質輸送を解析することにより上述の実験の現象の再現と物質輸送特性への理解を深める.本年度は,最終年度の前年に相当するが,これまでに当初の予定を上回るペースで研究開発を進めてきており,1年間の前倒しによる研究目標の達成に向け,研究開発を加速する.
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)
Energy Procedia
巻: 86 ページ: 460-468
10.1016/j.egypro.2016.01.047
Journal of Fluid Science and Technology
巻: 10 ページ: 1-13
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Exp. Fluids
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