研究課題/領域番号 |
25281038
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
高橋 由紀子 長岡技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00399502)
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研究分担者 |
和久井 喜人 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (10358369)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 高感度試験紙 / 簡易分析 / ナノ材料 / 環境分析 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、1) 有機ナノ粒子作製技術の確立、2) 比色試薬ナノ粒子のサイズ効果の検証、3) ナノ薄膜への浸透と反応性制御、4) 妨害除去技術の確立、5) ppbレベルの化学状態分析という全サブテーマを予定していた。1)、3)、5)はかなり進展し、ナノ薄膜試験紙の基盤技術の確立に大いに貢献したが、2)は1)の有機ナノ粒子のサイズ作り分けが完成されなかったため継続を断念し、4)はカドミウムイオン試験紙の亜鉛の妨害除去研究のみ行った。 サブテーマ1)では、当初から目標としていた超音波スプレーを用いたミスト化-ミスト分離に基づく有機ナノ粒子の作製として粒径制限管や気相加熱による効果を確認し、1ミスト1粒子の作製が可能であることが示唆された。また新たにゼラチン分解物中での合成を発案し、いくつかの有機ナノ粒子分散液の作製に成功し、高い分散安定性を確認した。前者は連続、粒径が揃う等の、後者は簡便、高収率等の利点があり、両方とも弱い相互作用で形成されている有機ナノ粒子の合成法に適していると考えた。3)は大幅に進展し、ナノ薄膜を水溶性高分子もしくは保湿剤を添加することで水とイオンの浸透性を大きく改善し、大幅に呈色時間が短縮することを確認している。同時に分子、粒子、ナノ粒子膜での反応性の違いを分析し、分子と粒子のイオンに対する反応性はあまり変わらず、粒子集合体であるナノ粒子膜の疎水性の凹凸構造が表面の撥水性を強調し、浸透性に大きく影響していることが判明した。4) では、カドミウム試験紙での亜鉛の除去を目指し、分離を試みたが未完成である。5) では、鉄(2価/3価)の状態分析用の試験紙を作成し、お互いの干渉除去を検討した結果、2価鉄はほぼ干渉無く定量できたが、3価鉄は水酸化速度が大きく、試験紙そのものの呈色時間を短くすることおよび試薬の再検討が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に行った課題のうち、1) 有機ナノ粒子作製技術の確立は当初予定の超音波スプレーを用いたミスト化-ミスト分離に基づく有機ナノ粒子の作製の成果に加えて、新たにゼラチン分解物中での合成もいくつかの有機色素で成功し、ゼータ電位測定等より分散安定性を確認しているため、当初計画以上に進展している。2) 比色試薬ナノ粒子のサイズ効果の検証は1)でサイズの作り分けが完成しなかったためこれ以上の継続を断念した。3) ナノ薄膜への浸透と反応性制御は、改質剤による水とイオンの浸透性の改善に成功し、かつ分子・粒子・ナノ薄膜での反応性の結果からナノ薄膜試験紙の呈色時間が長い原因が、疎水性色素の集合体である粒子が疎水性の凹凸構造となり表面の撥水性を強調していることが判明したため、予定より進展している。4) 妨害除去技術の確立は研究支援者が体調不良により約6ヶ月で辞職したため、中断しており、遅れいてる。5) ppbレベルの化学状態分析では、鉄(2価/3価)の状態分析用の試験紙を個々に作成することに成功し、互いの干渉除去を検討し、結果の解析、次の解決案の提案まで至ったため、概ね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度にあたり、1) 有機ナノ粒子作製技術の確立、3) ナノ薄膜への浸透と反応性制御、4) 妨害除去技術の確立、5) ppbレベルの化学状態分析を行う。1)、3)、5)は昨年度までにかなり進展したため、次の研究に繋げるための追加実験および解析、まとめを行うが、2)は1)の有機ナノ粒子のサイズ作り分けが完成されていないため継続を断念し、4)はカドミウム試験紙の亜鉛除去のみに限定して完成を目指す。 サブテーマ1)の超音波スプレーを用いたミスト化-ミスト分離に基づく有機ナノ粒子作製では、ミスト分離、ミスト加熱、粒子回収についておおよそ装置を最適化したが、粒子回収がもっともネックとなっていることがわかったため改善し、収量を上げることを目標とする。ゼラチン分解物中での合成は、さらに適用可能な有機物の種類を増やし、分散安定性の定量的な評価や作製された粒子のSEMやXRDによる形状の評価、有機物自体の安定性についてての試験等を予定している。学会発表および論文作成、場合によっては特許の出願も検討する。3)は、さらにいくつか試薬を試し、添加剤効果について解析、まとめをすすめ、学会発表および論文化する。4) では、カドミウム試験紙での亜鉛の除去を目指し、T. Hayashita et al., Bull. Chem. Jpn., 63, 576 (1990) を参考に、イオン交換膜での塩化物錯体の分配の違いを利用して分離除去したい。実サンプルは米酸抽出液を使用する。5) では、平成26年度当初に鉄(2価/3価)のみに絞ることを決めており、鉄(2価/3価)の状態分析用の試験紙を今年度は実サンプルにて評価および河川や海水等の環境サンプルでのサブppbレベルを目指した高感度化を図る。鉄(2価)は酸化されやすいため、3)の添加剤を利用し、迅速定量とする。学会発表および論文作成を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に、当初から予定していたデジテルマイクロスコープ(備品)を購入したが、消費税率が上がったため、加えて、粒子の合成法やナノ薄膜の浸透性のサブテーマで新たに開始した研究に関する消耗品のため、前倒し申請を行った。その後、研究支援者が体調不良のため退職したため人件費が大幅に減額し、これらの予定外の経費の合算により、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は最終年度にあたり、研究内容を確かめるための再実験、確認実験、発表・論文作成を行い、同時並行で本研究で見出された新たな知見を次の研究に結びつける基礎研究を行う。消耗品費、学会旅費、研究支援者の人件費、論文投稿費等に使用する予定である。
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