研究課題/領域番号 |
25281043
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栗栖 太 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30312979)
|
研究分担者 |
春日 郁朗 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (20431794)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | バイオレメディエーション / ベンゼン / 電気培養 |
研究実績の概要 |
嫌気ベンゼン分解微生物の候補として、集積培養系の中で特定されたHasda-Aのゲノム解析を行うため、昨年度までにセルソータによる1細胞分離と、非特異的遺伝子増幅技術による遺伝子増幅を実施した。今年度においては、昨年度得られたHasda-AゲノムDNAの増幅産物のうち、異なる2つの細胞に由来するものの配列について、次世代シーケンサにより解読した。 各ゲノム配列それぞれ約2000万bp分の配列をアッセンブリしたところ、それぞれ120、85のコンティグ、約150万、110万bpの塩基配列となった。また、平均のコンティグ長はともに12,000bp程度であった。これら2つのゲノム配列をさらに統合したところ、118コンティグ、209万bpの配列となった。つづいて、ソフトウエアRASTを用いて、遺伝子のアノテーションを行った。その結果、2388 種の遺伝子、1000強のタンパク質からなっていることがわかった。これらの中には、たとえば、安息香酸の分解に関与するbenzoyl CoA reductaseの遺伝子BamF-Iが見出された。このことから、Hasda-Aは少なくともベンゼン分解の下流に位置する安息香酸分解には関与している可能性が強まった。 次に、集積培養系を用いた代謝経路解明のアプローチとしては、電気培養の検討を継続し、推定代謝産物の添加による影響を見る試験を行った。前年度行った検討により有効性が示された電子メディエータであるコバルトを加え、参照電極に対し-400mVの電位を付加した実験を行った。その結果、電気培養により培養槽中の酸化還元電位を制御できることが明らかとなり、ベンゼン分解を促進するために必要な環境条件を整えることが可能であることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度予定していた研究のうち、Hasda-Aの遺伝子解析については、ゲノム配列の解読と、アッセンブリ、および遺伝子のアノテーションまで行うことができ、ほぼ計画どおりに成果を得ることができた。また、電気培養については、電子メディエータを加えて期待する酸化還元電位を得ることまでは達成できた。ただ、ベンゼン分解自体は電気培養の有無にかかわらず差が見られなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
Hasda-Aの遺伝子解析については、得られた膨大なデータの解析を進める。冗長度10以上での解析を行い、また2つのゲノム配列を統合したにもかかわらず、ゲノムの推定カバー率が70%程度であった。今回解読できなかった配列上に、ベンゼン分解に重要な遺伝子が残っている可能性は否定できない点は、セルソータと非特異的遺伝子増幅を用いた1細胞ゲノミクスの研究アプローチの限界であることも明らかとなった。今後は、得られたデータの範囲内で、遺伝子から推定できる代謝経路の特定を行っていく。 また、本研究に着手した頃(2012年以降)から、電気培養と類似の原理を持つ微生物燃料電池による嫌気ベンゼン分解の報告が報告されてきていることから、微生物燃料電池による分解促進も取り入れて研究を実施する。これら既報の研究を参考に装置の改良を行い、陰極側の電極表面積を大きくして電子授受の効率を上げるとともに、陽極側に電子受容体を用いて分解試験を行う。さらに、ベンゼン分解の促進のためには、電極への電子供与が直接的に重要なのか、培養液中のredoxポテンシャルが低くなることが重要なのかを明らかにするため、電極を用いず、培養系のredoxポテンシャルを低く制御した培養系での分解実験も行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ予定通り執行したが、電気培養実験に加え、微生物燃料電池実験を実施することとなったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
微生物燃料電池装置の運転にかかる消耗品として使用する。
|