水田からのメタン発生には土壌中に棲息する古細菌の仲間のメタン生成菌が関与していることが分かっている。これまでの研究から,メタン生成菌の中でもRice cluster IとよばれるMethanocella paludicolaがイネの根表面に侵入し,根から分泌される有機物を利用してメタンを活発に生成することが分かってきた。本年は,植物種の違いがメタン菌の群集構造特にメタン生成にかかわるMethanocella paludicolaの優占度をどのように変えるかについて研究を行った。その結果,水田に隣接する湿地のヨシ原にもメタン菌群集が存在するが,水田でのメタン生成に大きく関与したMethanocella paludicolaの割合がヨシ原土壌では著しく低下し,一方で水田での優占度が抑えられていた Methanosarcinaceae の割合が増加していた。100km以上離れたヨシ湿地で同じような群集構造が見られたため,ヨシ原と水田では近接するにもかかわらず,メタン菌の群集構造は地上の植物種により変化することが分かった。一方,山麓などの自然条件下で形成された自然湿地は人為的攪乱を受けたヨシ湿地とメタン菌群集の構造が大きく異なることが分かり,水田以外の湿地ではメタン菌群集が植物の種組成で大きく異なることが分かった。このことから,水田を含む湿地のメタン生成には湿地に棲息する植物種によりメタン菌の群集構造が大きくかかわっていることが示唆され,水田からのメタン削減技術に関してイネとメタン菌の共進化の観点から研究を進めることの有効性が示唆された。
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