研究課題/領域番号 |
25282008
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 神戸芸術工科大学 |
研究代表者 |
相良 二朗 神戸芸術工科大学, デザイン学部, 教授 (10330490)
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研究分担者 |
種村 留美 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (00324690)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 認知症 / 軽度認知症 / 在宅高齢者 / センシング / マイクロコントローラ / 合成音声発生装置 / 音声録音再生装置 |
研究概要 |
1)在宅高齢者調査:独居および日中独居の高齢者83名を対象に生活機器使用状況調査を実施した。 2)国際比較検討:これまでに調査を実施した93例のデータをもとに、2013年9月にスウェーデン王国カロリンスカ研究所において、スウェーデンにおける同種(ETUQ:Everyday Technology Usage Qestionare)調査との比較検討を行った。日本側の調査結果はカロリンスカ研究所においてラッシュ分析を行うこととなり、その場での予備分析では納得の行く結果が出そうであることが確認された。この両者の研究成果はカロリンスカ研究所が中心となり国際学会誌へ投稿することとなった。 3)促し装置の開発:訪問調査から明らかとなったニーズに対してどのような促しが効果的かの検討ならびに、センサや音声合成等のデバイス類の基礎調査、マイクロコントローラの比較検討などを行い、促し装置の基礎設計を実施できた。 4)その他支援機器の開発:調査の結果、テレビなどのリモコン操作の難しさが明らかとなった。また、机上の複数のリモコンの存在が混乱を生じさせていることも明らかとなった。これを受けて、テレビ、エアコン、天井灯の3つの基本操作を行うことができるシンプルなリモコンを試作した。これは三角柱形状の各面に操作ボタンを配置したもので、操作対象の面を選択して操作を行うようにデザインした。また、コンセントからプラグを抜き取ってしまう認知症者が少なからず存在し、猛暑日のエアコンの使用や、インターネット機器など長時間の電源断で設定値が消失する機器の使用に問題が生じていた。これを解決するためにコンセントカバーのデザインにも着手した。 5)成果の報告:これまでの成果ならびに促し装置の必要性等に関して学会や研究会などで報告する機会を得、研究者等との意見交換を行うことができ、今後の研究継続への弾みとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)在宅訪問調査は、調査協力者の確保が難しいが、神戸大学が実施してきた地域住民の健康度調査と重ねることで健康高齢者多数を対象とした聞き取り調査が実施できた。また、群馬県の診療所の協力を得て、在宅認知症者4名を一度に訪問調査することができた。 2)スウェーデン王国カロリンスカ研究所との協力関係が深まり、データ比較やデータ解析への協力が得られた。 3)促し装置の開発に関しては、在宅高齢者の調査で発掘された生活上の問題に対して、促し装置の開発に着手した。これらは、①日時と気温や湿度などの室内気候を音声で知らせ、生活リズムと段冷房機器の適切な使用を促す装置、②食物の腐敗に伴い発生する硫化水素ガスやメチルメルカプタンなどの臭気ガスを検出し、冷蔵庫など食品収納庫内の食物の劣化を知らせる装置、③外出を検知し、家に留まるよう促す装置である。①と②については、センサの性能評価やマイクロコントローラの比較検討を行い、基本設計を実施した。③については、試作機の臨床使用評価を行う機会があり、装置の有効性が明らかとなったが、同時に改良すべき点がいくつか指摘されたため、その改良に着手した。 4)リモコンによる混乱という問題に対して、基本的な家電製品であるテレビ、エアコン、天井灯の3種を操作できるリモコンの開発を完了できた。 5)研究代表者が研究の成果と今後の方向について、神戸芸術工科大学紀要に投稿を行い、2013年8月に韓国京畿道にて開催されたiCREATe2013において口頭発表を行った。また、岡山県「ハートフル岡山研究会」とパナソニック株式会社エコソリューション社において講演を行った。さらに、2014年6月にスウェーデンのルンド大学において開催される国際学会Universal Design 2014へ投稿し、採択された。
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今後の研究の推進方策 |
1)引き続き、在宅訪問調査(ETUQ)を行い、データの蓄積とそのデータベース化を進める。認知症者や軽度認知症者の調査協力者を得ることが難しいが、学会発表等を通して医療機関等の協力が得られるようになってきた。また、ETUQ調査への関心も集まりつつあり、講習会を開催して各地でのデータ収集を可能とし、データ互換の方向を検討する。 2)作業療法士学会国際大会が横浜市で開催される機会を捉え、認知症と日常生活機器に関する国際セッションを開催する計画が生まれたので、これを活用してより広い国際ネットワークを構築する機会としたい。 3)促し装置については、単体としての装置を完成させ、ベンチマークテストついで臨床試用評価を行い、効果について検証する。促しに用いる音声として、肉声が良いのか、感情を伴わない合成音声が良いのかを検証する必要性が明らかとなったため、これらの比較検討を行う。また、促し装置を統合する「促す家」としての概念設計とシステム設計に着手する。 4)その他の支援機器としては、開発した簡単リモコンやコンセントカバーの臨床試用評価を実施するとともに、訪問調査から導き出される問題に対してデザインによる解決を模索する。 5)研究成果については機会をとらえて学会発表や論文投稿を行い、各界の研究者らとの意見交換を進める。なお、6月にはスウェーデンのルンドにて開催されるUD2014での口頭発表が決定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
業務の都合上、遠隔地への調査旅行を実施することができなかった。また、促し装置について使用するデバイスの性能を確認するための試作基板製作は実施できたが、その性能評価において採用を予定したデバイスの性能が不十分であることが判明したため、デバイス選定からの再検討が必要となり、回路の再設計を行ったため、製作発注に至らなかった。特に、臭気センサを用いた腐敗食品の存在を注意喚起する装置では、回路の消費電力が大きく、機能は確認することができたが、アルカリ乾電池では数日しか使用できないことが判明した。この改善のためには、採用するマイクロコントローラの選定ならびに、ソフトウェア開発を一から見直すことが必要となったため、工程に遅れが生じた。 調査については、調査協力者の都合に合わせる必要がある一方、抜けることができない業務もあるため、できるだけ長期間の調整期間を設けて調査協力者への依頼を行うように心がける。 促し装置の開発については、今年度早期に回路設計を完了し、基板製作を外注する。ソフトウェアについても、アルゴリズムの開発をこちらで行い、具体的なコーディングを外注することで作業効率を高めるとともに、研究費を有効かつ計画的に使用する。
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