研究課題/領域番号 |
25282024
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
林 久由 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (40238118)
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研究分担者 |
五十里 彰 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (50315850)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | タイト結合 / クロージン / NHE3 / Na+依存性栄養素吸収 |
研究実績の概要 |
Na依存性グルコース吸収時に吸収されたNaがタイト結合を介してリサイクルしている可能性を検討した。摘出したマウスの小腸を用い、グルコース吸収時の22Naの経上皮性フラックスを測定した。タイト結合のイオン移動の駆動力であると考えられる経上皮電位差を0mVに固定した短絡電流条件下と、傍細胞間経路のイオン移動が起こると考えられる非短絡電流条件下での、グルコース吸収に伴う経上皮の22Naフラックス変化を測定した。グルコースによる短絡電流の上昇に伴い略同量のNaフラックスの上昇が観察された。次に非短絡電流条件下で同様の実験を行った。短絡電流条件下と比較してNaフラックス上昇が遅れて生じ、また上昇量は減少した。これらのNa輸送にNHE3が関与するか否かを検討するため、NHE3特異的抑制剤であるS3226用い検討した。S3226存在下では短絡条件下のグルコース添加によるNaフラックス上昇はコントロールと比べ減少し、非短絡条件下ではNaフラックス上昇はほとんど観察されなかった。また、短絡条件下と比較し非短絡条件下ではNaフラックス上昇が減少していたことから、Naがタイト結合を介してリサイクルしていることが示唆された。またNaCl吸収機構が腸管の、どの部位で、どのように調節されているかを明らかにする為に、マウスに低ナトリウム食を摂食させ、腸管各部位でのNaCl吸収に関与が想定されている輸送体の発現が変化するか否かを検討した。NHE3は上部空腸と中位大腸で発現が高く、低ナトリウム食摂取により、これらの部位の発現の亢進した。Cl輸送体の発現量変化も観察した。大腸型のCl輸送体であるSLC26A3はNHE3の増加が観察された近位大腸では発現量の変化は観察されなかった。また小腸型のCl輸送体であるSLC26A6では低ナトリウム食摂取により上部小腸での増加が観察され、NHE3と共役していることが示唆され、NaCl吸収は腸管の部位特異的な機序により調節されていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Na依存性のグルコース吸収時に伴い体循環に入るNa量と、電気的中性の機構を介し体循環に入るNa量の量的関係の検討を行うことが本研究の最初の主な目的である。最初にNaCl吸収部位とそれに関与する分子を同定する為にリアルタイムRT-PCR法を用いて検討を行い、低ナトリウム食をマウスに摂取させ輸送体の発現量の変化を観察した。上部小腸においてNa輸送体であるNHE3並びにCl輸送体であるSLC26A6の発現が増加しており、これらが主要なNaCl吸収に関与している可能性が示唆された。更にマウスに非吸収性のマーカーであるPEGを摂取させ、小腸各部位でのNaの吸収速度を観察した。吸収速度は上部小腸で最も高く、これらの結果はmRNA量の結果と一致し、マウスにおいては小腸上部が主要なNaCl吸収部位であることが示唆された。またNa依存性のグルコース吸収に伴うNa量と電気的中性の機構であるNHE3を介して吸収されるNa+量をユッシングチャンバー法で測定した。基線では電気的中性のNa吸収が観察されたがNHE3の特異的抑制剤であるS3226ではNa吸収は抑制されなかった。またNa依存性のグルコース吸収に伴うNa吸収増加は経上皮電位差を無くした短絡条件下では観察されたが、非短絡条件下ではNa吸収増加は時間的に遅れて増加し、更にこの増加はS3226で抑制された。これらの結果はNa依存性グルコースに伴うNa吸収はタイト結合を介し、管腔側にリサイクルされている可能性を示している。この可能性を小腸の主要なタイト結合構成タンパクであるクロージン15が欠損したマウスを用いて検討を行っている。昨年度はクロージン15マウスが1匹しか検討できなかったが非短絡条件下でもグルコース吸収に伴い大きなNa吸収増加が観察された。これらの結果はNa依存性のグルコース吸収時には、Naの吸収に伴い発生した経上皮電位差を駆動力とし、タイト結合を介し管腔側にNaがリサイクルされ、Naは体循環には移行しない可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は基本的には昨年度の実験を継続して行い、論文作成の為に不可欠なデータであり昨年度行えなかった実験に重点を置く。一つ目はクロージン15により形成される陽イオン選択性のタイト結合の役割を直接的に検討するためクロージン15ノックアウトマウスを用いた実験であり、昨年度はクロージン15ノックアウトマウスの飼育環境が良くなかったため、ノックアウトマウスが数匹のみしか生まれなかったためこの点を改善し、実験を行う。また同時に野生型マウスを用いて、Na依存性ではない促進拡散で吸収されるフルクトースやNaに間接的に依存しているペプチドなどの際に、栄養素吸収とNa吸収がどの様な量的関係にあるのかを明らかにする。更に電気的中性の機構を介し体循環に入るNa量の量的関係の検討を行うために搬入予定であったNHE3のノックアウトマウスの搬入に関しては依然目途が立っていないため、NHE3のS3226とは別の特異的抑制剤であり吸収されないことが明らかになっている試薬(Tenapanor hydrochloride)の使用が可能であるかも検討を行う。 また下痢などの病態時には通常体循環に入らないと考えられているグルコース吸収に伴うNa吸収が起こることが考えられており、経口補液療法として用いられている。この機序を明らかにするためにcAMP刺激によるCl分泌時のタイト結合のイオン透過性の変化を22Naを用いて検討を行う。 更に昨年度の研究ではNHE3は栄養素吸収が起こっていない基線では働いてなく、グルコースやペプチド吸収に伴い活性化されることが明らかになった。このためNHE3の細胞発現系を確立し、活性化機構についても検討を行う。
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