研究実績の概要 |
後藤牧太,篠田利英,瀧澤菊太郎,柳生寧成著『小学校生徒用物理書(上中下巻)』(以下『小生物理書』と略記)の使用実績:『小生物理書』の所在数調査を実施,群馬県内に32巻を確認,書籍の裏面等の記載事項,氏名,住所等から,当時17郡中7郡で同教科書の使用実績を確認した.赤羽は日本科学史学会2014年度第61回年会で報告した. 『小生物理書』の刊行までの経緯における著者及び群馬県師範学校の役割分担の解明:1884(明治17)年2~12月に開催された同校教諭篠田,瀧澤,柳生等(後藤の弟子等)による小学校教員講習会の科目「物理」では物理器械の取扱法と簡易物理器械の製作が実施されていた.簡易器械製作は”active learning”に相当する.こうした教育実践を確認した上で1885(明治18)年『小生物理書』が刊行されたといえる。赤羽は第18回西日本研究大会(日本科学史学会中国支部共催)で報告した.この過程の詳細は継続研究とし平成27年度完成を目指す. 『小生物理書』の実験内容の分析と明治30年代刊行『実験書』との比較調査:a)全実験題目147テーマと出版教科書(現行教科書含む)の実験テーマとの比較検討については,根岸福弥著書『小学理科講義実験法』(1899)について,分類作業を分担・実施した.他の『実験書』については継続研究とし平成27年度完成を目指す.b)『小生物理書』上巻,中巻,下巻の現代訳及び英訳の試行はほぼ完成し,文章表現等の検討を継続研究とし平成27年度での完成を目指す.c) 原子物理学(放射線関連)分野の追加課題である「放射線教育事始め」の解明は後藤関連著書等の内容を検討した.明治28年発見のX線であるが,既に30-40年代の初等理科教科書に記述を見出した.27年度詳細を明らかにする.赤羽は応用物理学会(2014年9月)で展示報告した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
後藤牧太他3名著『小学校生徒用物理書(上中下巻)』(以下『小生物理書』と略記)の使用実績については本年度ほぼ達成した.理由:『小生物理書』の所在数調査を実施し,群馬県内に32巻を確認,教科書への記載事項から,当時17郡中7郡で同教科書の使用実績を確認した.調査結果からほぼ全県域で『小生物理書』が使用されたものと推察できる. 『小生物理書』の刊行過程における著者及び群馬県師範学校の役割分担の解明について,後藤の弟子,篠田,瀧澤,柳生等が小学校教員講習会の科目「物理」において物理器械の取扱法と簡易物理器械の製作,”active learning”の実施を経て刊行という過程が明らかになり,達成度を8割とした.理由:製作品は57種(『小生物理書』記載の147実験の一部と考えられ)との報告があり,こうした教育実践を経て翌年1885年に『小生物理書』が刊行されたと考えることができる. 『小生物理書』の実験内容の分析と明治30年代刊行実験書との比較調査:a)全実験題目147テーマと出版教科書(現行教科書含む)の実験テーマとの比較検討については,根岸福弥著書『小学理科講義実験法』(1899)』について,分類作業を分担実施した.達成度は5割である.理由:比較調査の雛形形成等に時間が掛ったのが遅延の理由.継続研究とし平成27年度完成を目指す.b)『小生物理書』上巻,中巻,下巻の現代訳及び英訳の試行は8割の達成とした.理由:現代訳及び英文はほぼ終了したが,文章等の検討を継続研究とし平成27年度での完成を目指す.c) 原子物理学(放射線関連)分野の追加課題である「放射線教育事始め」の解明については,後藤著書等の調査を行い,6割達成した.理由:明治28年発見のX線であるが,既に30-40年代の初等理科教科書に記述がある.新発見への好奇心が教育界にあったことが伺える.27年度詳細を明らかにする.
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今後の研究の推進方策 |
後藤牧太他著『小学校生徒用物理書』(以下『小生物理書』と略記)の刊行までの経緯における著者及び群馬県師範学校の役割分担の解明について,後藤とその弟子(篠田,瀧澤,柳生)の関わり方の詳細を明らかにする.同時に小学校教員講習会で物理器械の取扱法と簡易物理器械の製作”active learning”について,その教育実践の実態を明らかにする(担当:赤羽,所澤). 『小生物理書』の実験内容の全実験題目147テーマと後藤とその弟子等の出版した実験教科書について実験テーマとの比較検討を行いデータベース化を図る.根岸福弥著『小学理科講義実験法』(1899)以外の主に6冊を対象に分類作業を分担・実施予定(担当:高橋,赤羽,玉置,所澤).『小生物理書』上巻,中巻,下巻の現代訳及び英訳の試行はほぼ完成したが,文章表現等について十分な検討が必要である(担当:玉置,所澤,高橋).原子物理学(放射線関連)分野の追加課題である「放射線教育事始め」の解明は後藤著書等について検討し,初等理科教育に導入・展開された理由等,特に放射線の防護の観点にも触れる(担当:赤羽). 平成27年度新たな実施事項は次の3件である.27-1)群馬県師範学校関係者の小学校実験教育に対する実践教育の実態の解明:同校関係者の小学校実験教育に対する方針の解明を踏まえ,平成27年度の完成を目指す(担当:高橋,所澤,玉置,赤羽). 27-2)簡易理化器械(手作り実験具を含む)を基盤とした群馬県師範学校の実験教育の実態解明:これまでの2年間にわたる簡易理化器械(手作り実験具を含む)を基盤とした群馬県師範学校の実験教育について分類,分析,総括し,その実態を明らかにする.28年度前半の完成を目指す(担当:赤羽,高橋,所澤,玉置). 27-3)今日への波及効果,示唆するものを考察する.28年度前半の完成を目指す(担当:赤羽,高橋,所澤,玉置).
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