研究課題
基盤研究(B)
研究所年度は、試料空白地での試料収集、既存現生材試料の年輪幅分析、酸素同位体比の分析準備、および新規DNAマーカー開発を行った。新規試料収集は、東日本で老齢樹の森林が存在する新潟県佐渡島にある新潟大学演習林で行い、ヒノキアスナロ30点以上を収集した。また、既存の試料として、研究分担者が所属する奈良文化財研究所所蔵の岩手、長野県産のヒノキアスナロおよびアスナロ材10点の試料の年輪幅計測を実施した。今後、各地域での標準年輪曲線構築と他地域との年輪幅変動比較を行う予定である。木質古文化財試料としては、新たに青森県高間遺跡のヒノキアスナロ材調査を実施し、8-11世紀の新規標準年輪曲線を構築した。また、北海道江差町の古民家で天井板などに使用されているヒノキアスナロ材の予備調査を行い、今年度、本調査を実施する予定である。酸素安定同位体分析については、青森県下北および津軽半島産のヒノキアスナロ材5点(樹齢約250年)について、セルロース抽出及び測定試料の準備を行った。これらについては、今後、安定同位体測定を行う予定である。新規DNAマーカー開発では、アスナロ、ヒノキアスナロの集団遺伝学的研究に使用可能なEST-SSRマーカー22個を作製した。今後、天然分布のアスナロ、ヒノキアスナロの解析を行うことで、各集団間および集団内の遺伝的多様性を評価し、産地推定に繋げること可能になると期待される。
2: おおむね順調に進展している
新規試料収集については、当初の予定通り、東日本の試料空白地で十分な数の試料を得ることができた。また、既存現生材試料についても、当初の予定通り、長野・岩手県産のヒノキアスナロ材を入手し、年輪幅計測を実施した。従って試料収集と年輪幅分析については予定通り達成できたと評価される。一方、安定同位体分析では、初年度のため実験系確立にやや時間を要した。そのため当初の予定では、初年度後半に同位体分析を始める予定であったが、分析試料の準備(秤量)までに留まった。しかしながら、試料はすぐに分析できる状態になっており、2年度目の早い時期に測定予定であることから、おおむね順調と評価できる。新規DNAマーカーの開発については、当初の予定通り、EST-SSRマーカーの開発に成功した。従って、予定通り達成できたと評価される。
年輪幅計測と分析については、初年度に収集した新潟、長野、岩手の試料の年輪幅計測と分析を進め、他の地域との年輪幅変動との類似点、相違点について検討を行う。その上で、新たな試料収集の必要性があれば、試料収集を行う予定である。安定同位体測定については、当初の予定通り、青森に加え、長野、新潟の試料についても、セルロース抽出と試料準備を進め、逐次、測定を実施していく。また、木質古文化財試料についても、候補となる遺跡、建造物の試料の準備を進める。アスナロの集団遺伝学的解析については、今年度、新たに岐阜、徳島、宮崎の3ヶ所で各20~30個体のサンプリングを行うと共に、昨年度に開発したEST-SSRマーカーを用いて集団遺伝解析を行い、それぞれの産地の遺伝的多様性及び産地間の遺伝的差異について明らかにする。さらに、現生木材DNAの抽出、解析に着手する。
当初計画においては、初年度に、青森のアスナロ試料の安定同位体測定を実施する予定であったが、予定が遅れたため、測定に至らなかった。そのため、その分析費用に充てる研究費が未使用であり、次年度使用額が生じた。初年度使用しなかった安定同位体の測定費用については、今年度前半に当該試料の安定同位体を測定予定であり、同一目的での使用を計画している。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 1件)
Vegetation History and Archaeobotany
巻: 23 ページ: 649-664
10.1007/s00334-013-0423-1
平成25年度東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター紀要
巻: 4 ページ: 19-40
青森市埋蔵文化財報告書第116集-3 石江遺跡群発掘調査報告VII
巻: 116 ページ: 154-157
小竹貝塚発掘調査報告‐北陸新幹線建設に伴う埋蔵文化財発掘報告X‐第二分冊自然科学分析編
巻: 60 ページ: 297-292
Radiocarbon
巻: 55 ページ: 251-259
10.2458/azu_js_rc.55.16263
奈良文化財研究所紀要2013
巻: 無 ページ: 86-96