研究課題
今年度は、木質文化財試料の年輪幅分析、年輪の酸素安定同位体比分析、開発したEST-SSRマーカーのマルチプレックス化を行った。年輪幅分析では、函館市の旧相馬邸および江差町の旧中村家住宅でそれぞれ74点、80点、の年輪画像を収集し、分析を行った。その結果、旧相馬邸では、1780-1900年の新たな標準年輪曲線が得られ、データの蓄積が進展すると共に、建築年代に関する有力な情報を得ることに成功した。また、旧中村家住宅でも新たなデータが蓄積された。酸素安定同位体比分析では、前年度に引き続き、青森の現生ヒバ試料2個体(下北1、津軽1)の測定を進め、双方とも300年間のデータを得た。また、中部地方の現生アスナロについても新たに測定を行った。これにより、青森県内では酸素安定同位体比に高い同調性があること、青森と長野では同調性がないことが明らかとなり、酸素安定同位体比が木材産地推定の有力なパラメーターであることが示唆された。岩手県および新潟県の現生ヒバ試料についても、セルロース抽出および試料調製を進め、測定準備を行った。同様に、建築材、出土木材についても、セルロース抽出準備を行っている。DNAマーカー開発では、昨年度に開発したアスナロ及びヒノキアスナロ(ヒバ)の両変種に使用可能なEST-SSRマーカーのマルチプレックス化を試みた。その結果、多型性が高いEST-SSRマーカー6座によるマルチプレックス化に成功し、個体同定や産地推定を簡便かつ正確に実施する手法を確立した。なお、得られた知見は日本森林学会誌に投稿、第97巻第5号に掲載された。また、木材からのDNA抽出と開発したマーカーの適用については、結果が安定せず、良好な結果が得られていない。
3: やや遅れている
アスナロの年輪幅分析については、当初予定していた各地域での現生材分析を進め、地域内、地域間の変動の類似性について一定の知見を得た。また木質文化財でも当初予定していた建造物の調査を終えることができた。一方で、安定同位体分析については、質量分析計の不調などから現生材試料の測定が遅れており、まだデータの得られていない地域がある。また、文化財試料についても担当者の退職などで借用・許可が遅れたため、これから測定を行う予定である。DNAマーカーについては、開発が順調に進展し、当初予定していた成果を収めることができた。また、木材への応用についても、成果には必ずしも結びつかなかったものの、可能性について十分に検討を行うことができた。以上のことから、全体としてはやや遅れていると評価した。
安定同位体については、未測定の試料について、現生材、木質遺物とも順調にセルロース分析と試料調製を進めつつあり、最後の段階として、安定同位体比を測定するだけの状態になっているので、次年度ですべての測定を完了させる予定である。すべてのデータが得られた時点で、最終目的としていた木材産地推定に向けた各パラメーターの評価を行う予定である。
現生材試料の安定同位体比の測定が、質量分析計の不調などもあり、予定通りに進展しなかったため、測定費および旅費が未使用となった。また、木質文化財試料の測定についても、担当者の退職などで使用許可が遅れ、予定通り進展しなかったため、同じく、測定費および旅費が未使用となった。そのため、次年度使用額が発生した。
現生材、木質遺物試料とも安定同位体比測定に向けた試料調製は順調に進展しているため、次年度では、試料調製に関わる消耗品、測定費、測定に関わる旅費に主として使用する予定である。
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