研究課題/領域番号 |
25282072
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
宮田 佳樹 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 博士研究員 (70413896)
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研究分担者 |
堀内 晶子 国際基督教大学, アーツ・サイエンス研究科, 研究員 (60052289)
久保 謙哉 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (60214988)
中村 俊夫 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 教授 (10135387)
南 雅代 名古屋大学, 年代測定総合研究センター, 准教授 (90324392)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脂質分析 / 土器 / 炭素年代 / 安定同位体 / 土器付着炭化物 / 古食性 / 分子レベル炭素同位体比 / GC-MS |
研究実績の概要 |
縄文晩期,亀ヶ岡文化圏にある三つの異なった環境の遺跡,不備無遺跡,今津遺跡,杉沢遺跡から出土した大洞C2式を主体とする土器片に焦点を絞り,1.土器に残留した脂質の同定,2.脂質中の炭素数16,18の直鎖状飽和脂肪酸の分子レベル炭素同位体分析,3.内面土器付着物中の炭素・窒素食性解析を行い,当時の縄文人が土器をどのように使用し,何を調理していたか,科学分析の観点からみえてくる食生活の地域特異性や共通性を考察した。
海浜部不備無遺跡のスス・炭化物付着深鉢は,APAA*が残留するため海洋性生物の煮炊きに使われたと推測できる土器と,APAAは含まないがコレステロールが残留するため,陸生動植物を調理したと推測できる土器に大きく二分された。手法2,3の結果もこの傾向を支持し,食材による土器使い分けの可能性を示唆した。 製塩遺跡の今津遺跡出土土器からはAPAA等の海洋性生物の痕跡は認められなかった。しかし,動物性由来コレステロールと海洋生物に多い長鎖不飽和脂肪酸が検出されたため,陸生動物と海洋性動物が一緒に調理された可能性がある。また,用途不明壺の脂質組成が製塩土器と類似することから,鹹水作製など,製塩過程との関連性も推測された。内陸性杉沢遺跡では,堅果類に含まれる植物性脂質が陸生動物脂質と同時に検出され,脂質含量の高い,高カロリーな陸生動植物が調理された事が示唆された。以上,土器による作り分けの可能性と環境に応じた食生活の差異を科学的に説明することができた。
*炭素鎖18,20,22の芳香環を含む脂肪酸(ω-(o-alkylphenyl)alkanoic acids: APPA)は二重結合をもつ脂肪酸が270℃以上に加熱されると土器内で生成し,(数千年間も)残存するため,環境中では分解し,残留できない魚類等海洋性生物に多く含まれる長鎖不飽和脂肪酸が加熱(調理)された事を示すバイオマーカー
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は,以下の2点により,当初の計画以上に進展していると判断した。 1)本申請経費でリースした新設のGC-MSによって,順調に脂質分析が行われた。その結果, 2)土器残留脂質組成分析(1),土器残留脂質中のC16:0及びC18:0(Cx:y=炭素数:二重結合数)の分子レベル炭素同位体分析(2),内面土器付着炭化物の炭素年代測定によるリザーバー効果の評価,炭素・窒素安定同位体分析(3)を相補的に用いることにより,縄文晩期亀ヶ岡文化期の食材に応じた土器(大洞C2式土器)作い分けの様子も含め,食生活の地域特異性や共通性を科学分析によって読み解くことができた。2年目としては,十分な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に引き続き,高感度脂質分析システムを用いて,以下の観点から土器試料の分析を進めて行く。 1.特に,同一(個体)土器の付着炭化物のリザーバー効果や安定同位体組成(①),脂質分析結果(②),分子レベル脂肪酸の炭素同位体比(③)等,残存有機物情報の相関などの観点から検証を行う。 2.多数の日本産現生生物の脂質組成とその脂肪酸炭素同位体比の基礎データ収集を継続する。 3.調理実験を行ったモデル土器で,食材,土器付着炭化物①,残存有機物組成②,分子レベル脂肪酸同位体比③情報の整合性を確認し,上記1との比較検討も含めて,調理食材の多様性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に実験を行うにあたり計上した消耗品代が残ってしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度の消耗品費用と合わせて,適切に消化する。
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