研究課題
本研究の目的は,縄文土器表面に付着する炭化物(土器付着炭化物)と土器胎土に吸着する有機物(土器胎土吸着物),二種類の残存有機物の起源を最新の有機地球化学的手法で探ることにより,土器で調理された食材を復元することである。今年度は,少数であるが,器種,部位などを特定した考古学的コンテクストの高い土器試料を用いて,残存有機物の脂質分析(バイオマーカー分析;A)と分子レベル炭素同位体分析(B)との整合性を検討し,本分析手法の汎用性を検証した。縄文晩期大西貝塚(愛知県豊橋市)の分析例をあげる。同遺跡は,東海地方最大の干し貝を専門に作る加工場と考えられており,多量の蛤の殻とともに出土した少量の土器片の用途は,煮貝作製や製塩などと推定されている。分析した深鉢の土器片から,C30までのVLCFA(Very Long Chain Fatty Acid)とC32までのVLCA(Very Long Chain Alcohol)が検出されたこと,そして,C18のAPAAのみ検出されたことから,魚類や海獣等を専門に調理した容器ではなく,ワックスを多く含む植物を加熱したことが示唆される。例えば,ハマグリを入れたかごや網などの植物性繊維が煮炊きされた痕跡などと考えてもよいだろう。また,ジカルボン酸の検出から不飽和脂肪酸の存在,コレステロールの検出,分子レベル同位体分析結果から,二枚貝を調理した可能性も支持された。また,通常,製塩土器に残留する脂質量は極めて少なく,しかもアルコール類の方がFAよりも多く検出されるため,これらの深鉢が製塩に利用された可能性は低い。従って,これらの深鉢は製塩や通常調理ではなく,蛤加工に利用されたと考えても良さそうである。以上,考古学的なコンテクストに基づき,分析手法AおよびBの結果を調和的に解釈することによって,遺跡における人間活動を科学的に説明することができた。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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