前年度炭素14年代を測定した兵庫県姫路市円教寺桔木枕(ケヤキ)と新潟県新発田市白壁兵舎部材(マツ)の,酸素同位体比法による年輪年代測定を中塚が実施した。その結果,前者の年代はAD1410~1520であったが,後者は炭素14年代から予想されたAD1700前後ではなくAD1785~1870であることが判明した。 以上の成果と,前年度結果を得た伊勢神宮倒木スギの測定結果を,セネガルで開催された第22回国際放射性炭素会議で坂本が報告した。ここでは,IntCalのウィグルから外れる近世日本の文化財建造物部材の炭素14年代が伊勢神宮スギの挙動と合致し,南半球の大気の影響と考えられてきた当該期の炭素14年代の挙動は日本産樹木年輪に特徴的かつ共通することを示した。しかしながら,19世紀以降の日本産樹木年輪である白壁兵舎の挙動とは必ずしも合致せず,今後の検討が必要であることも併せて示した。 平等院鳳凰堂の建築遺構材のうち,ヒノキ材は奈良文化財研究所の光谷氏によりAD1020~1180との年輪年代を得たが,コウヤマキ材は年輪年代法が不調だったため,酸素同位体比法による測定を中塚が実施し,AD952~1037という結果を得た。坂本がそれぞれの炭素14年代測定を実施した結果,前者はほぼIntCalに沿うものであった。ところが,後者はIntCalからの乖離が認められる上に重なる時期の前者とも合致せず,再測定を実施している。
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