研究課題/領域番号 |
25282076
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
神谷 嘉美 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, その他部局等, 研究員 (90445841)
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研究分担者 |
本多 貴之 明治大学, 理工学部, 講師 (40409462)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 漆 / 文化財 / クロスセクション / Py-GC/MS / 微量 / 水銀朱 / 硫化ヒ素 / 顔料 |
研究概要 |
漆文化財には多種類の材料が使われ、複層構造になっている。本研究課題は、用いられた材料について、層ごとの有機成分および無機成分についての複数の情報を1つのクロスセクション(断面試料)から取り出すトータル分析を提案・実施することで、漆工技法や技術の変遷を解明しようという試みである。初年度は各分析装置で測定するための複層構造をしたモデル試料の作製に着手し、経年劣化した漆試料の分析を行った。経年劣化した試料の分析では、熱分解-ガスクロマトグラフィー/質量分析法[Py-GC/MS]を用いることで、塗料として使われる漆樹の特定と一部の無機顔料の有無については、1回の測定で同時に分析可能であることを明らかにした。具体的には、水銀の安定同位体を確認することで水銀朱が使用されているかどうかを判断し、硫黄と砒素の分子量に着目することで硫化砒素について含まれるかどうか判別できた。特に硫化砒素に関しては、SEM-EDXや蛍光X線分析では見出せなかった組成の細かな情報を追跡可能な可能性が出てきた。日本製の漆器だけでなくミャンマー製の漆器でも同様の分析結果を得られたことから、製作地に関わらず、朱色・黄色・緑色を使っている漆器全般で適用可能な分析結果といえる。 一方、ミュンスター漆美術館をはじめ、ドイツ国内での美術館・博物館の漆器の収蔵品調査を実施することで、微量試料での分析の需要が高いこと、東南アジアに限定している「漆」という材料と技法の両方に関する情報提示の必要性があるということを強く認識した。 代表研究者の異動に伴う勤務地の変更により、微量試料の採取時に使用する計画であったマニピュレーターシステムが一切使用できない状況になっていたが、12月末に移設が終了した。また、偏光・蛍光一体型の顕微鏡を購入したことで、クロスセクション観察における研究の推進が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
部署の異動に伴い勤務地が変更となり、研究代表者自身の研究環境が大幅に変わらざるを得なかった。この研究代表者の部署異動と研究実施初年度が重なったことから、交付申請書に記載していた計画を着実に実施することは想定以上に困難となった。交付申請書の提出時には各モデル試料の作製に大幅な遅れが生じる場合を考慮し、経年劣化している試料での分析や国内外での現地調査を計画に組み込んでいた。しかしながら、ドイツでの収蔵品調査を5月に実施した後は、新規異動先の責任者から研究することを実質的に許されない状況に陥った。学会発表2回、依頼講演1回の実施の許可を得ることもできなかった。また、国内での現地調査等の実施も禁止され、10月以降にモデル試料片の作製のための出張が認められるようになったが、交付申請書に記載した計画より進行が遅れている状況は否定できない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り次年度も、モデル試料の作製を継続して行っていく。試料の作製にやや遅れが生じているが、経年劣化した試料の分析を併行しながら実施することで、全体的な研究計画に大幅な遅れを発生させないようする予定である。複層構造のモデル試料の作製には時間を有するものの、移設が完了したマニピュレーターシステムを利用した断面からの微量切削の条件検討に着手し、順次Py-GC/MSなどの分析を行っていく。特に、初年度作製の終了している単層塗膜での微量切削および複数の分析での検証を早期に終了させ、実際の漆文化財の実証試験を前倒しで行えるように、着実にモデル試料での実験を進めていく計画である。 また、初年度に実施できなかった国内での現地調査も遂行することで、実際の文化財分析への協力者と連絡を重ねながら交渉を進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究実施初年度と研究代表者の部署異動に伴う勤務先の変更が重なったため、研究の実施環境に大幅な制約が生じた。特に半年以上、新規配属先の責任者から研究実施の許可が下りず、当初計画していた項目に費用を使用することは出来なかったことが大きな理由となっている。具体的には試料作製に関連して生じる費用、学会参加、依頼講演、研究協力者らと計画していた出土漆器の現地調査・打合わせ(北海道、沖縄など)、提供試料の分析結果に関する報告会の実施である。以上の項目への利用が出来なかった分、次年度への使用額が生じる結果となっている。モデル試料の作製に関しては、次年度の早い時期に分析が可能とるよう数を絞り込んで着手しているため、関係する費用は小さなものとなった。また入札の結果、一体型顕微鏡一式の購入費用が当初の見積り額よりも100万円以上安くなったため、物品費の予算を次年度に使用する分が増える結果となっている。 研究実施上必要となる装置の移設や蛍光偏光顕微鏡一式の購入は終了しており、配属先の責任者も代わり、初年度に実行できなかった計画を推進可能な状況と判断している。平成26年に国際学会での研究発表、西欧における漆器収蔵品調査と分析用試料の収集を組み込み、経年劣化した漆試料の分析を前倒しで実施するために大部分を使用していく予定である。積極的に分析用の実際の試料を購入していくことで分析計画を推進し、モデル試料の作製の遅れを取り戻したいと考えている。また微量分析用に使用できそうな開発途中のテープや、モデル試料作製に必要な漆工用道具にも使用する計画である。
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