本研究期間(平成25年度~29年度)を通じて漢代木槨・木棺材のなかで多く使われているコウヨウザン(広葉杉)を対象樹種に選び、現地で約80点を超えるサンプル採取をおこなった。これらから計測収集した個々の年輪パターンの照合をおこなった結果、全体の約3割のサンプルにおいて年輪パターンの照合が成立し、564年間の平均値パターン(標準パターンとするには年輪データ数がやや少ないパターンをいう)を作成した。この年輪パターンの暦年代を明らかにするため、このなかの1点についてC14年代法を用いて年代測定をおこなった結果、紀元前6世紀~紀元後1世紀代の年輪パターンであることが判明した。これ以外に中世の木槨材を使って241年間分(紀元後11世紀~14世紀)の年輪パターンを作成することができた。 本年度は5年間かけて作成した2種類の年輪パターンの信頼性をより確かなものにするため、収集した年輪パターンデータを再チェックする作業をおこなった。また、コウヨウザンは不連続年輪が出現する個体が多く確認されたため、これらを含む個体については再度年輪画像を用いて再計測するなど詳細な検討を加えた。しかし、不連続年輪が確認されたサンプルが1層分だけあらわれる試料については、年輪照合が成立する個体もあったが、2層以上あらわれる個体については年輪パターンの照合はむずかしいことがわかった。不連続年輪のない個体については、中国漢代の木槨・木棺材に貴重な年代情報を提示できる樹種として、564年間分の平均値パターンは今後、漢代の木槨・木棺墓の年代解明に活かされていくものと思われる。
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