研究課題/領域番号 |
25282094
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
藤原 義久 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 教授 (50358892)
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研究分担者 |
木村 真 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 准教授 (50419959)
中村 知道 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 准教授 (50615789)
島 伸一郎 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 准教授 (70415983)
青山 秀明 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40202501)
眞鍋 雅史 嘉悦大学, ビジネス創造学部, 准教授 (20537071)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 社会システム / 複雑系ネットワーク / 経済システム / financial crisis / complex network |
研究実績の概要 |
昨年度までに確立した手法である、時間遅れを含む集団運動の抽出が可能な複素主成分分析の応用展開を行った。すなわち、複素主成分分析の方法を国内の個別物価変動と世界の債券・為替市場での資産価格変動に応用した。物価変動については、真のコアとも言うべき物価変動の主成分は、為替、時間外労働時間、失業率とは相関しているが、マネー・サプライとは有意な相関をしていないという発見に関するフルペーパーを執筆し、経済産業研究所のディスカッションペーパーとして発表した。この論文については、海外で著名なVoxEU.orgの編集長より一般向け記事の執筆依頼を受けた。その記事は掲載中に閲覧数トップの取り扱いを受けた。一方、資産価格の変動については、米国ボストン大学のグループと共同して、国際的な債券と為替市場の集団運動とその伝播、アイスランド危機の実態をも明らかにした結果をインパクトファクターの高い学術雑誌への論文として発表した。 また今年度の新しい展開として、日本の金融ネットワークのデータを整備して、ハンガリー・イタリアのチームと共同して行ったネットワーク解析も学術雑誌への論文2本を発表するに至った。 さらに昨年度後半に開始した、グラフ探索アルゴリズムを用いたショック伝播の大規模計算について、理化学研究所計算科学研究機構との共同研究を進めて、京コンピュータなどのスパコン上での経済ストレスの伝播シミュレーションを約百万社の企業と数百万の取引関係からなる実データに対して実行して、その結果を経済産業研究所のディスカッションペーパーやハイ・パフォーマンス・コンピューティングに関する学会発表として発表した。 以上に加えて、多変量時系列データに対するモデルからネットワーク構造を読み解く手法、同期現象の数理的なモデルとその理論についてもPhysical Reviewの論文に成果として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複素主成分分析では、元の時系列を実部、そのヒルベルト変換を虚部とする複素数の時系列を構成して、多変数時系列間の複素相関を計算する。連携研究者の家富洋教授(新潟大学)によって開発された回転ランダムシャッフル法によって、個別時系列の自己相関を壊さずに相関構造をランダム化する方法では、実時系列におけるランダム行列理論の複素化によって、一般には時間遅れを伴う主成分分析を行うことができる。この解析手法を用いて、国内の個別物価変動と世界の債券・為替市場での資産価格変動に応用して、その結果として経済変動の主要成分の発見とそれらの伝播の様子を明らかにした。 また、日本の金融機関と上場企業からなる金融ネットワークのデータを整備した上で、過去20年以上にわたるネットワーク構造の時間変化、コミュニティー(関係性の密なグループ)とその時間変化の解析、そのためのBonferroni統計量の手法の確立、信用ネットワークにおけるバックボーン構造の同定など、複雑ネットワーク解析とその応用を行った。 さらに昨年度後半に開始した、グラフ探索アルゴリズムを用いたショック伝播の大規模計算については、その実装を京コンピュータを含むスパコンでのテストを行った後、約百万社の企業と数百万の取引関係からなる生産ネットワークに関する実データに適用した。これまで数日かかってようやく一回の計算しかできなかったのに比べて、スパコンと新しい実装によって数分で計算が完了するため、複数の初期条件や多数のシナリオの下で経済ストレスがどのように伝播するのか明らかにするための基礎が完成した。 くわえて、多変量時系列データに対するモデルからネットワーク構造を読み解く手法、同期現象の数理的なモデルとその理論についても学術論文に成果として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
景気変動のメカニズムと経済的なストレス波及のダイナミクスを解明するため、経済ネットワーク上での経済変動の同期的な運動やその伝播を数理的にモデル化して、現実の経済ビッグデータに基づく数百万の経済主体の属性とそれらの関係性を計算機上にモデルとして表現し、様々なシナリオをアンサンブルとしてシミュレーションを行う。景気変動や経済的破綻(倒産など)に関わる現実のデータを比較して検証しながら、経済システムの安定性に関するモニタリング及び経済危機の予測・早期警戒システム構築へつなげる。このために、昨年度に完成した理化学研究所計算科学研究機構との共同研究による経済ストレス伝播モデルであるDebtRank計算では、グラフ上で経済主体をノード、それらの関係性をエッジとして表現するが、今後は、ノードやエッジに実データに対応する属性を情報として付加してモデルを拡張、また、ランダムグラフを多数発生させて比較実験を行う。 一方、実データとの比較に関して倒産やデフォルトの経済的破綻による検証を行う。倒産やデフォルトは一つの企業が一定のレベルを超えた資金繰りの悪化の事象であると見なすことができる。同じ産業や地域に属する他の企業について、同じタイミングで同様のイベントが発生したり、それらのイベント発生の企業に依存している他の企業や金融機関にも同様のイベントが発生する確率が高くなると考えられる。実際、倒産の原因として、他社倒産の余波や売掛金回収難など、イベント間の相互作用の結果となるものの割合は少なくない。こうした例に典型的に見られるように、経済ネットワーク上でのイベント発生について、発生のトレンドやばらつきなど統計的な性質の推定、イベント間のネットワークの結合推定、将来のイベント発生の予測を行うための確率モデルの構築とその応用を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議の共催のために会議の費用を見込んでいたが、参加者が想定よりも多く参加費が十分であったので負担が軽微であった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の国際会議の主催のための会議運営費とする計画である。
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備考 |
(1)は世界の著名な経済学者や社会科学者らによる政策に関する情報発信サイトVoxEU.orgの編集長Richard Baldwin氏らから一般向け記事として研究内容の執筆依頼があったもので,掲載中に閲覧数トップ記事の取り扱いを受け,ダボス会議でも引用された.
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