研究課題/領域番号 |
25282125
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山家 智之 東北大学, 加齢医学研究所, 教授 (70241578)
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研究分担者 |
白石 泰之 東北大学, 加齢医学研究所, 准教授 (00329137)
吉澤 誠 東北大学, サイバーサイエンスセンター, 教授 (60166931)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高血圧制御装置 / 自律神経 / 腎神経 / 完全埋め込み型 / 電子冷却素子 / 高血圧 |
研究実績の概要 |
本研究の開発目標は、世界で初めての「患者が自分で血圧を下げることができる完全埋め込み型血圧低下装置」の開発である。そのために、完全埋め込み型血圧低下装置の開発研究を行い、試作したシステムの基本性能を恒温槽で確認した後に、モックテストし動物実験倫理委員会の審査の後、動物実験を行って、その交感神経活動、血行動態に与える効果を確認する。 血圧低下装置のシステムは、腎動脈周辺に埋め込まれる電子冷却素子システムとそれに融合した経皮エネルギー伝送ユニット2次コイル、さらにこれに体外から電磁駆動力を供給する1次コイルから構成されるシンプルなデバイスで、ペースメーカとほぼ同等の手術手技で簡便に埋込み手術を行うことができる。患者は、自分で必要と判断した時に1次コイルを稼働させれば、腎動脈神経が冷却され、腎交感神経活動が抑制されるので、腎動脈は拡張し、尿量は増加し、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の液性因子が適度にコントロールされ、血圧は下がる。従って、患者は自宅で血圧を計りながら、あるいは、自分で症状を感じながら、適切に血圧をコントロールすることができる。 本研究計画ではシステムの試作品開発を目指し、試作したシステムの基本性能を恒温槽で確認した後に、モックでテストし、理想的なシステム開発を試みる。試作したシステムは、大学院医学系研究科動物実験倫理委員会の審査の後、動物実験に供し、腎動脈神経の冷却試験を試み、その効果を確認する。具体的には動物実験を行い、麻酔導入の後、後腹膜にアプローチして腎動脈を剥離、腎動脈周辺に併走する腎交感神経周辺に電子冷却阻止を配置する。腎交感神経活動をバイポーラ電極で計測し、腎動脈神経活動の抑制を確認する。すなわち、 「患者さんが自分で血圧を制御できる血圧制御装置」の具現化を目指して試作されたシステムを臨床開発に向けデバイスへのリファインを試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
薬剤抵抗性の重症の高血圧患者に対して副腎腫瘍切除や、腎動脈の自律神経アブレーション手術などの臨床試験が試みられているが、腎動脈のアブレーション手術は、自律神経を焼き切ることになるので、術後、腎機能に対応する自律神経制御が不可能になる。そこで、腎動脈の周辺の腎交感神経に電子冷却素子を埋め込み、体外から必要な時だけ腎動脈を冷却し、腎交感神経を抑制することができれば、腎動脈が拡張し、レニンが適切に制御され、尿量が適切に増加し、血圧をコントロールすることができる。電子冷却素子は、体外から経皮エネルギー伝送システムにより駆動されるので安全である(特願2012-161453)ので、特許を出願した。 本邦における高血圧患者は4000万に上るという報告もあり(日本高血圧学会)、高血圧は心筋梗塞、脳梗塞、解離性大動脈瘤の破裂などにも関連する、心血管イベント発生に関する最も重要なリスク因子の一つである。外来における適切な診療によってコントロールされる患者も多いが、薬剤抵抗性で、三剤以上の薬剤でも適切なコントロールが得られない重症の高血圧患者の予後は限定されているのが現状である。 そこで重症高血圧患者に関して適応のある場合は、副腎腫瘍の切除、腎動脈アブレーション手術などが行われているが、自律神経は一回切除すれば、再生することはないので、交感神経切除や腎動脈アブレーションを行えば、基本的に術後の人体において、自律神経制御は不可能になる。高血圧のコントロールに関しては腎交感神経の適切な制御が必要という概念を得、特許を申請した。完全に切除したり、交感神経を焼き切って再生不能にする切除手術ではなく、「患者が自分で、必要な時だけ血圧を下げることができる埋め込み型血圧低下装置」の発明に至り、これまでに試作機による動物実験を行い、腎動脈神経活動の抑制に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の開発目標は、世界で初めての「患者が自分で血圧を下げることができる完全埋め込み型血圧低下装置」の開発である。血圧低下装置のシステムは、腎動脈周辺に埋め込まれる電子冷却素子システムとそれに融合した経皮エネルギー伝送ユニット2次コイル、さらにこれに体外から電磁駆動力を供給する1次コイルから構成されるシンプルなデバイスで、ペースメーカとほぼ同等の手術手技で簡便に埋込み手術を行うことができる。必要と判断した時に1次コイルを稼働させれば、腎動脈神経が冷却され、腎交感神経活動が抑制されるので、腎動脈は拡張し尿量は増加しレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系の液性因子が適度にコントロールされ血圧は下がる。従って、患者は自宅で血圧を計りながら、あるいは症状をみながらコントロールすることができる。 開発を目指し、試作したシステムの基本性能を恒温槽で確認した後に、モック循環回路でテストする。大学院医学系研究科動物実験倫理委員会の審査の後、動物実験に供し、腎動脈神経の冷却試験を試み、その効果絵を確認する。具体的には、健康な山羊を使った動物実験を行い、麻酔導入の後、後腹膜にアプローチして腎動脈を剥離、腎動脈周辺に併走する腎交感神経周辺に電子冷却阻止を配置する。中心静脈圧、動脈圧、左房圧、肺動脈圧、心拍出量などの血行動態時系列曲線を記録すると同時に、腎交感神経活動をバイポーラ電極で計測し、腎動脈神経活動の抑制を確認する。すなわち、 「患者さんが自分で血圧を制御できる血圧制御装置」の具現化を目指して試作されたシステムを臨床開発に向けたソフィスティケイトされたデバイスへのリファインを試みつつ、慢性埋込み試験が可能なレベルに向けての防水、防熱、防湿措置を行い、生理食塩水にシステム全体を埋め込んでも可能なレベルへ改善を試み、断線した場合は、防水部の加工を行うなど、基礎的基盤研究を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の目的は、世界で初めての「患者が自分で、必要な時に、血圧を下げることができる完全埋め込み型血圧低下装置」の開発である。薬剤抵抗性の重症の高血圧患者に対して腎神経アブレーション手術の臨床試験が試みられているが、腎動脈のアブレーション手術は、自律神経を焼き切ることになる。そこで腎神経に電子冷却素子を埋め込み、必要な時だけ冷却し、腎神経を抑制することができれば、腎動脈が拡張し、レニンが適切に制御され、尿量が適切に増加し、血圧をコントロールすることができる。(特願2012-161453) これまでシステムの試作を進めており動物実験を次年度以降に集中して行うため、研究費用の一部を移行させた。残念ながら、人工臓器の開発に動物実験は今のところ必須であるにもかかわらず、日本では動物福祉に則る実験が進まない状況にあり、システムの倫理的な愛護的方策に時間をかけており、次年度へ一部予算を移転している。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度以降は、平成28年度までに完成された完全埋込型システムをモック実験でリファインしつつ、急性、慢性の動物実験を行い、システムの安全性、耐久性などの評価を行う。具体的には、成山羊を用いて薬剤投与による高血圧誘導ヤギ実験システムを作成し、手術を行って腎交感神経表面に電極を装着する。このペルチェ冷却素子に組み合わせた二次コイルによる通電による高血圧治療効果を確認する。 最終年度までに、臨床のピボタルスタディが可能なレベルの完全埋め込み型の血圧低下装置の開発を行い、健康な成山羊6頭を使った慢性動物実験を行い、その血圧変化コントロール装置の基本性能を確認しつつ、慢性耐久性試験を行い長期生存で耐久性を確認する。さらにモデル山羊を作成し、埋め込み型血圧低下装置の埋込み手術を行って基本性能試験を並列して行う。
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