研究課題
血管内皮細胞は血流に起因する力学的刺激である流れずり応力(shear stress)や伸展張力(stretch)をセンシングし、その情報を細胞内部に伝達することで細胞応答を起こすが、センシング機構の詳細は明らかではない。本年度は肺動脈内皮細胞(HPAECs)にshear stressとstretchを作用させたときの細胞膜リン脂質の相状態(lipid order)の変化を環境感受性プローブLaurdanによるイメージング法で、膜流動性の変化を光褪色後蛍光回復法で解析した。Shear stressを作用すると即座に細胞膜のlipid orderが減少し、膜の流動性が増加した。一方、stretchを作用すると、細胞膜のlipid orderが増大し、膜の流動性が減少するといったshear stressとは逆の反応が観察された。この変化は内皮細胞だけでなく、人工脂質二分子膜で構成される巨大リポソームでも同様に観察されたことから、物理現象であることが示された。この形質膜の物理的性質の変化は細胞膜分子の活性化に関わっていた。Shear stressにより血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)がstretchにより血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)がそれぞれリン酸化するが、細胞にコレステロールを添加してshear stressによるlipid orderの変化を起こらなくするとshear stressによるVEGFRのリン酸化が有意に抑制され、膜コレステロールを除去するMβCDで細胞を処理してstretchによるlipid orderの変化を起こらなくすると、stretchによるPDGFRのリン酸化が明らかに抑制された。これらの結果から細胞膜の物理的性質の変化が内皮細胞のメカノトランスダクションに重要な役割を果たす、すなわち、形質膜自体がメカノセンサーとして働くことが示唆された。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
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