研究課題/領域番号 |
25282130
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林田 祐樹 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10381005)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生物・生体工学 / ナノ材料 / 脳・神経 / 神経電極 / 神経補綴 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,過去に我々が開発したin-vitro向けの神経用途カーボンナノチューブ(CNT)バンドル電極を,移植用途の仕様に合わせて改良開発し,その有用性をin-vivo神経組織を用いた生理学実験等により評価・検証することである.本研究期間ではこれまで,1)初年度,脳組織を模擬したアガロースゲル内部への繰り返し刺入が可能な機械的強度を持つ電極形状を実現した.2)2年目,電極の電気化学的特性を計測する装置の故障に対応すると共に,in-vivoのマウス脳組織へ作製電極を刺入する試験を実施した.3)3年目,上記の装置を含む計測システム等を再構築すると共に,in-vivoマウス脳硬膜の事前貫通により,脳皮質内部への電極刺入が可能なことを見出した.そこで,4年目となる昨年度は,in-vivoのラット脳組織において,イ)皮質内部への作製電極の刺入試験,ロ)この刺入電極を介した皮質内刺激通電,ハ)この刺激に対する神経細胞群応答の計測を実施した.その結果,イ)については,硬膜の部分除去,並びにCNTバンドル部のマルトース被覆による可逆的硬化により,電極先端を皮質内部数百ミクロンの深さまで刺入することに成功した.またロ)については,皮質内神経刺激に広く用いられている酸化イリジウム電極を用いた場合と同じく,数十μA程度の振幅を持つ双極性電流パルスを安定して繰り返し通電することが可能なことを確認した.さらにハ)について,その電流パルス刺激によって,電極先端近傍の神経細胞群に興奮応答が誘発可能であることを,膜電位感受性色素を用いた脳活動高速イメージングにより明らかにした.これらは世界的に一切前例のない結果であり,今後も実験を継続して十分な例数のデータを得る必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実績概要に記載の通り,本研究開始2年目の想定外の計測装置故障により,当初計画から全体的に随時遅れを生じている.また,開発する電極の最大の利点の一つである機械的柔軟さが,in-vivo脳組織への刺入の際には障害となっていた.しかし昨年度に新規導入したマルトース被覆による電極の可逆的硬化法によって,この障害を克服し,さらには皮質内電流刺激による神経興奮誘発とその時空間応答の計測にも成功した.以上から,本研究の当初計画からの遅れを一部解消したと判断し区分(3)とした.
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今後の研究の推進方策 |
実績概要に記載した昨年度の研究成果は,世界的に一切前例のないものであり,本研究の目的を達成するうえで極めて重要なものである.そこで,同様の実験を継続すべく,昨年度末に研究期間の延長申請を行い,その承認を得た.従って今後はこれに注力し,我々の開発するCNTバンドル電極の移植用途としての可能性を立証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実績概要に記載の通り,本研究開始2年目の想定外の計測装置故障により,当初計画から全体的に随時遅れを生じている.しかし昨年度は世界的に前例のない実験成果を得るに至ったことから,同様の実験を次年度も継続して実施し,十分な実験データを取得することが,本研究の目的達成に必要と判断した.
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次年度使用額の使用計画 |
上記の理由から,CNTバンドル電極の作製およびこれらを用いたin-vivo生理学実験を実施する.次年度使用額は,これらに使用する消耗品等の購入に充てる.
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