研究課題/領域番号 |
25282133
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮崎 浩 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (00263228)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞 / 細胞核 / 形態 / 力学的特性 / 力学場 |
研究実績の概要 |
本研究では,細胞および細胞核の形態と構造の計測を行うとともに,力学試験によって一細胞個体において細胞と細胞核の力学的特性を詳細に計測し,細胞および細胞核の形態・構造と細胞核の力学的特性との関係を明らかにし,さらに,細胞核の置かれた力学場を明らかにすることを目的としている。 1) 細胞・細胞核用引張・圧縮試験装置の改良と力学試験 前年度に光ピンセット装置とXY自動ステージを顕微鏡に組み込み,これらを用いて,細胞から単離した細胞核を非接触で捕捉し,特定の細胞核の位置操作を行えるようになった。しかし,溶液交換の際に生じる液流によって細胞核がレーザトラップから外れて流失してしまう問題があった。これを解決するために,溶液交換法を改善し,単離細胞核を一時的に格納するためのマイクロピペットの使用を試みた。しかし,レーザがピペットにかかるとトラップが外れてしまうこと,力学試験用マイクロツール間の狭い空間にピペットを配置するために位置的制約があること,さらに,確実に吸い込むために吸引圧を大きくするとピペット内で細胞核を見失ってしまうなどの問題が生じたため,引き続き問題を解決すべくより成功率の高い方法の検討を行い,単離細胞核の確保から力学試験に至るプロセスの確立を行っている。 2) F-アクチンを破壊した細胞および単離核の力学試験 DsRed-アクチンの遺伝子導入を行ってから線維芽細胞をカバーガラス上で培養し,次いでGFP-ヒストンH2Bの遺伝子導入を行った。これらの細胞にCytochalasin Dを投与して1時間静置して細胞のF-アクチンを脱重合させ,その間のF-アクチンと細胞核形態の蛍光観察を行った。薬剤投与1時間後にはF-アクチンはほぼ完全に脱重合しており,その間に細胞核は変形して高さを増大させた。その後の力学試験については,方法の確立が終わっていないためデータ取得に至っていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は,光ピンセット装置と一時格納用ピペットを併用して,力学試験後の細胞個体から単離した細胞核を捕捉し,引き続きその細胞核の力学試験を行うまで保持しておくための方法を確立することが大きな目的の一つであった。しかし,トラップ用レーザがピペットにかかると細胞核がトラップから外れてしまうこと,力学試験用マイクロツール間の狭い空間に一時格納用ピペットを配置するために位置的制約が大きいこと,確実に吸い込むために吸引圧を大きくするとピペット内で対象とする細胞核を見失ってしまい,さらに近くに浮遊している細胞の残骸や細胞核までも吸い込んでしまうなどの問題が生じたため,引き続き成功率の高い方法の検討を行い,単離細胞核の確保から力学試験に至るプロセスの確立を行っているところである。 細胞への遺伝子導入は,導入効率は低いものの,アクチンフィラメントも細胞核も本研究に使用できるレベルの蛍光強度をもつ細胞を得ることが出来ている。
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今後の研究の推進方策 |
単一細胞とその細胞の細胞核の力学的特性を詳細に計測する一連の力学試験を行うためには,一細胞個体から単離した細胞核の捕捉と確保を行うことが不可欠である。そのため,引き続き,この技術の確立を最優先で行っていく。細胞核単離液によって細胞から単離した細胞核をまず光ピンセットで捕捉するが,その位置には2本の細胞把持用マイクロツールがあり空間が狭く,一時格納用マイクロピペットのアプローチが難しい。そのため,少しサイズの大きい試験チャンバーを使用して空間を確保し,光ピンセットで捕捉した細胞核を広いスペースに移動させた後に弱い圧力でピペット内に吸引して,細胞核を一時的に格納する。試験用溶液の灌流により核単離液を除去した後,マイクロピペットから細胞核を吐出させて光ピンセットで再度捕捉することにより,問題の解決を図る。 方法の確立を行った後,無処理の細胞,およびF-アクチンを薬剤で脱重合させた細胞,ラミンをノックダウンさせた細胞を用いて,単一細胞およびその細胞から単離した細胞核の圧縮試験,マイクロピペット吸引試験を行う。これらの試験によって,細胞の力学的特性に対する細胞核の寄与,F-アクチンの発達が細胞核の力学的特性に及ぼす影響を明らかにするとともに,細胞および核の力学的特性に対する核ラミナの寄与を明らかにする。 さらに,力学試験とともに微細構造の蛍光観察を行い,細胞および細胞核の三次元形態・構造・構成要素の分布と力学的特性との関係を明らかにし,形態データと力学データの統合的解析により細胞核内外の力学場を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
学術研究助成基金助成金に未使用額が生じた。これは,今年度の研究課題の一部に解決すべき課題が生じたことにより予定通り進まなかったため,全て予定通り遂行出来た場合に要する費用の支出がなかったことによるものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は,今年度に生じた課題遂行上の問題点を解決し,研究を進めていく予定であり,そのために今年度は購入を見合わせた必要物品の購入,マイクロマニピュレータなど定期的なメンテナンスが必要な装置類の修理費用,今年度故障した装置の修理費用,予定している研究の推進に必要な機器および消耗品類の購入を行う。また,成果報告および研究調査のために数回の国内・国外会議への参加を予定しており,その参加費用に充てる。
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