研究課題/領域番号 |
25282136
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研究種目 |
基盤研究(B)
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
酒井 宏水 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (70318830)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体材料 / 再生医学 / 人工血液 / 生体機能利用 / ナノバイオ / リポソーム / 人工赤血球 / 解糖系 |
研究概要 |
人工赤血球(Hb小胞体, HbV)は、輸血代替としてその機能と安全性が実証されている。HbVはメトヘモグロビン(metHb)還元酵素系を含有しないため、投与後metHb含量が漸増する。本研究では新たに、Thiazine系色素(MB)の血管内投与によって、HbVの酸素運搬機能が復元されることを明らかにしたので、MBの作用機序について詳細を検討している。Wistar系ラットにメト化率が約0%または50%程度のHbV分散液を静脈内投与、次いでMBを静脈内投与し、経時的に少量採血してHbVを分画し、Soret帯スペクトルの変化からメト化率の推移を約5時間観察した。またin vitroの実験として、ラット新鮮血, 洗浄赤血球, 血漿に対してHbVおよびMBを添加し、metHbレベルの推移を計測した。その結果、MBの投与によって、HbVのメト化率は50%から10%程度に急激に低下し、約5時間低い値を推移した。またその効果は、MBの投与量に依存していた。metHb含量が0%のHbVを投与した直後にMBを投与した場合も、metHbの増大を若干遅延させる効果が得られた。In vitroの実験として、新鮮ラット血液をメト化率約50%のHbVと各種混合比にて好気的条件で混合し、そこにMBを添加したところ、メト化率は瞬時に低下し、約10%程度にまで還元され、in vivoの還元効果がin vitroで再現された。洗浄赤血球との混合でも同等の効果が得られたが、血漿との混合では還元は見られなかったことから、赤血球がMBを還元型(MBH)に変換し、このMBHがHbVの脂質膜を透過し、metHb(Fe3+)に電子供与して還元型(Fe2+)に変換したものと考えられた。赤血球の混合比が低い条件(血液交換率が高い状態)にすると、還元効果は低減した。グルコースを添加すると還元効果は増進された。赤血球内の解糖系により産生される電子エネルギーを赤血球外に取り出し、これを人工赤血球HbVのmetHb還元に活用されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
人工赤血球に含有するmetHbの還元が、赤血球の解糖系により産生される電子エネルギーであること、またどのようにその電子を取り出すことができるのか、極めて明快に説明できる結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
赤血球内の解糖系による電子エネルギーを細胞の外に導きだして、人工赤血球内のmetHbを還元させることに成功した。今後は、解糖系の変化を精査するとともに、MBに代わる電子伝達系物質の探索を進め、効率を格段に高めることを目指す。将来的に臨床で利用する可能性があることをいつも念頭におき、動物実験系の構築を行ない、効能を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者(酒井)は平成25年4月1日に奈良県立医科大学に着任した。研究機材を前職の早稲田大学より移設するなど、新しい研究室のセットアップにかなりの時間を費やした。本格的に実験が実施出来るようになったのが9月に入ってからであったため、全体的に実験開始時期が遅れたことが最大の理由である。 次年度使用額については、人工赤血球調製のための消耗品や電子伝達系化学物質の購入、動物投与試験などに要する消耗品の購入、学会参会とそのための出張旅費などに使用する計画である。
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