研究課題/領域番号 |
25282138
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
中沢 一雄 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (50198058)
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研究分担者 |
原口 亮 独立行政法人国立循環器病研究センター, 情報統括部, 室長 (00393215)
井尻 敬 独立行政法人理化学研究所, 光量子工学研究領域, 基礎科学特別研究員 (30550347)
桑田 成規 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 総長付 (40379631)
稲田 慎 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 特任研究員 (50349792)
白石 公 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (80295659)
五十嵐 健夫 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (80345123)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生体シミュレーション / 先天性心疾患 / コンピュータグラフィックス |
研究実績の概要 |
26年度の研究実施計画の主なテーマとした「切開や変形などの簡易手術シミュレーション」について、医療情報学会誌に論文を掲載した。このシステムではタブレットPCによる計算コストを考え、幾何制約に基づいた擬似的な法則によって弾性体シミュレーションを行うShape Matching 法を採用し、心臓の3次元モデルは弾性体オブジェクトとしてシミュレートされる。ユーザはタブレットPCを用いて、心臓モデルの一部分をマルチタッチインタラクションによって引っ張って変形させるなどの操作を行い、心臓の内外の構造を観察することができる。さらに、この論文では、医師を対象に本システムの評価を行い、実用化に向けての意見や要望をまとめた。 また、従来から開発を行っていた先天性心疾患の2次元シェーマシステム、あるいは3次元モデルについての解説を「循環器専門医」に掲載した。この元となるシステムは25年度に開発し、病院情報システム(電子カルテ)の一部として稼働しているものである。2次元シェーマシステムについては、ベクトル型データとして作成された電子的シェーマに、形態的異常や病名などのキーワードを持たせ素早くシェーマを検索する機能や、心臓を部位別に分け、それぞれに対して典型的なパーツを用意して、それらを組み合わせてシェーマを作成する機能を持っている。一方、3次元モデルについては胎児心エコー検査に基づいて、3次元先天性心疾患モデルを簡易に作成するものである。 コンピュータシミュレーションを用いた小児循環器分野への診療支援などについて、学会発表を行った。さらに、新しい試みとして、2次元シェーマシステムをWebアプリケーション化することや、心臓筋線維の螺旋構造に着目した力学変形のシミュレーション研究の成果について学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
病院情報システム(電子カルテ)の一部として機能する、先天性心疾患のための「説明ツール」および「典型的症例集(ライブラリ)作成」を目指している。説明ツールについては、2次元シェーマシステムが病院情報システムの一部として既に稼働している。3次元モデルを用いた「切開や変形などの簡易手術シミュレーション」についてもかなり完成度が上がっている。研究実績の概要で記述したように、3次元の心臓モデルにおいて弾性体シミュレーションを行い、一部分をマルチタッチインタラクションによって引っ張って変形させる操作などが可能になり、変形機能についてはほとんど問題ない。しかし、課題として、切開については制限事項が多く、現在、その改善を図っている状況である。 一方、典型的な先天性心疾患の症例集のための心臓形状3次元モデル作成が課題となっていた。そこで、造影CT画像において、血管領域・心室領域・心房領域は閾値法で分割し、心筋領域は輪郭線制約に基づく手法で分割する方法を開発し、精度の高い心臓形状3次元モデルを得ることができた(第51回日本小児循環器学会総会・学術集会で発表予定)。 心臓形状3次元モデルに対し、仮想的に電気生理学的な興奮伝播を計算する技術は、従来のフィジオーム研究において開発されているので、それほど困難な課題ではない。しかし、単に興奮伝播を示すだけでなく、難解な不整脈現象を患者さんにとって分かり易く説明する表現するところに工夫が必要であり、種々の検討を行ったが、学会等で発表するには至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、先天性心疾患のための「説明ツール」および「典型的症例集(ライブラリ)作成」を行う。特に「切開や変形などの簡易手術シミュレーション」に ついて、従来はタブレットPCとしてiPadを使用していた。しかし、現在使用しているiPad の計算性能では頂点数が50,000 を超えるような心臓形状3次元モデルを扱うことが困難であるため、iPad以外のタブレットPCを使用するように開発を行う予定である。すなわち、軟性心臓レプリカを用いて実現している操作をタブレットPCで実現する心臓レプリカブラウザの研究開発を行う。タブレットPCを使って実時間で動作することに大きな意義があると考えるので、基本的には、従来通りShape Matching 法を用いる予定である。自然な軟性心臓レプリカの操作を想定し、心臓オブジェクトの局所的な運動を維持しつつ大局的な運動を減衰させる方法や、タブレットPCに対して指の動きを心臓オブジェクトに作用させる力に変換する方法など、システムを実現する上での技術的な課題を解決する必要がある。 さらに、心臓形状3次元モデル作成に必要な造影CT画像からの領域分割の手法にめどが立ったので、コンピュータシミュレーションによって先天性心疾患における心拍動の再現を目指す予定である。実際、先天性心疾患の心筋線維走向や刺激伝導系には未知の部分は多いが、これまで開発を行った心筋線維走向やプルキンエ線維作成の技術、リアルタイム心臓拍動シミュレーションの技術を応用することで、心拍動の再現を目指す。可能なら、心エコー検査の2次元断面との比較や、造影CT画像からの3次元表現との比較を行いたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、典型的な先天性心疾患の症例集のための心臓形状3次元モデル作成を業者に委託するように計画していた。タブレットPCでの計算コストの問題で、作成するモデルの容量などが確定できなかったため、委託に必要な仕様を限定できなかったことが主な原因である。昨年度、タブレットPCを用いたリアルタイム形状変形を実現するマルチタッチシステムを開発し、モデルの容量に見通しを立てることができた。さらに造影CT画像から、血管領域・心室領域・心房領域は閾値法で分割し、心筋領域は輪郭線制約に基づく手法で分割する方法を開発して、精度の高い心臓形状3次元モデルを得ることができた。結果として、心臓形状3次元モデル作成は独自開発が可能になった。心臓形状3次元モデル作成を業者に委託する必要がなくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度では、残った経費で専任研究者の雇用を行い、積極的に研究を進める予定である。専任研究者は心臓興奮伝播シミュレーションの専門家である。実際、興奮伝播シミュレーションの部分はスーパーコンピュータを利用しているが、結果として膨大な計算時間が必要である。興奮伝播の計算時間が律速段階とならないよう、コンピュータシミュレーションによる先天性心疾患の心拍動再現を目指す研究の実現に向け鋭意努力を行う。
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