研究課題
基盤研究(B)
マクロファージは侵入して来る病原体の種類により「善玉系」のマクロファージまたは「悪玉系」のマクロファージへと表現形が変わると考えられる。本研究課題では、結核、がんおよびCOPDの疾病モデルを作出し、病態に依存したマクロファージの表現形の変化、および「善玉系」マクロファージを増殖させるための方策に関して研究し、以下の成果を得ることができた。1) 結核菌に感染した肺胞マクロファージはリポ多糖(LPS)の作用によりTNF-αおよびnitric oxideを感染状態の50倍および10倍産生するようになり、肺胞マクロファージ内の結核菌の8割を殺滅することを明らかとした。すなわち、LPSは「善玉系」マクロファージを増やす作用を持つ物質であることが明らかとなった。2) 弱毒ウシ型結核菌株BCGとフロイント完全アジュバントを併用することで、肺内でBCGが長期間生残するlatent TBモデルを作出した。この動物モデルに対してLPSを投与したところ、「善玉系」マクロファージが増え、肺内の結核菌数が90%減少することを明らかにした。 3) LPSは微量で強力な炎症反応を誘導することから毒性が高いと考えられより安全に「善玉系」マクロファージを増やすための化合物を探索した。その結果、LPSの構造に類似しONO-4007はマクロファージによるTNF-αおよびnitric oxide産生を誘導し、かつマクロファージの細胞死を誘導しない化合物であることを明らかにした。さらに、ONO-4007により活性化したマクロファージはヒト肺がん細胞を障害することを明らかにした。4) COPDは炎症が慢性的に持続することにより起こる肺疾患であり、「悪玉系」マクロファージが関与していると考えられる。エラスターゼを肺へ直接投与することにより、激しい炎症が惹起された後、肺胞が拡張する肺気腫モデル動物の作出に成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、結核およびがんに加えてマクロファージが関与する慢性炎症によって引き起こされると考えられるCOPDに着目し、研究を進めている。本年度はlatent TBモデル、肺気腫モデル動物の作出が達成できた。また、「善玉系」のマクロファージを増やす作用を持つと考えられ、さらに安全性の高い化合物であるONO-4007がマクロファージを介してがん細胞を死滅させることを見出した。従って、本研究は当初の計画通り順調に進展した。来年度は本年度の成果を発展させるよう、各モデル動物における病態とマクロファージの表現形の変化について研究を進め、さらにONO-4007を用いて「善玉系」マクロファージを効果的に増やす方策についても取り組んでいく。
研究の進展に関わる大きな問題はない。次年度も、当初の計画通り研究を推進する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (6件) 図書 (1件) 産業財産権 (1件)
ANTICANCER RESEARCH
巻: 33(7) ページ: 2911-2915
COLLOIDS AND SURFACES B-BIOINTERFACES
巻: 105 ページ: 92-97