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2014 年度 実績報告書

光酸発生培養基材への精密光照射による接着細胞の物理プロセシング

研究課題

研究課題/領域番号 25282148
研究機関独立行政法人産業技術総合研究所

研究代表者

須丸 公雄  独立行政法人産業技術総合研究所, 幹細胞工学研究センター, 上級主任研究員 (40344436)

研究分担者 高木 俊之  独立行政法人産業技術総合研究所, 幹細胞工学研究センター, 主任研究員 (10248065)
金森 敏幸  独立行政法人産業技術総合研究所, 幹細胞工学研究センター, チーム長 (50356797)
研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード細胞操作 / 光酸発生ポリマー
研究実績の概要

可視光応答性光酸発生基を側鎖に有するPMMA(pPAGMMA)上への、様々なポリマーのコーティングを検討、細胞単層の切断と局所的な細胞剥離の両方を光照射で誘起可能な基材を、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のオーバーコートによって調製する条件を特定した。
この培養基材にMDCK細胞を播種し、緊密な細胞単層をなすまで培養、波長範囲350-450nmの紫外-可視光をグリッドパターンに沿って照射、さらに、波長436nmの青色光照射を、市松模様パターンに沿って照射した。3時間後、グリッドパターンに沿って細胞が死滅・崩壊していること、青色光照射を行った領域においては、細胞単層の浮き上がりを示唆する所見を観察、細胞単層に培地を均一に吹きつけることにより、青色光照射域からのみ細胞単層を剥離・回収することができることが確認された。この青色光も酸発生を誘起するが、低強度で必要十分時間の照射を行うことにより、細胞のviabilityをほとんど損なうことなく、非照射域に対して有意に接着が低減する条件が見出された。同様の光操作は、線維芽細胞であるNIH/3T3に対しても適用できることが確認された。
またpPAGMMAコート表面上に、架橋ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)層を形成、20-30%の水を含むエタノール中でパターン光照射を行うことによって、架橋HPC層を選択的に剥離できること、極めて高い阻害/接着コントラストを有するパターニング基材が実現できることが明らかになった。
一方、主鎖をPMMAとし弱酸型光酸発生基を側鎖に有する新規ポリマーの合成に成功、特定の条件で光応答水和性を示すことを観察したが、細胞の脱着制御を実現する条件特定には至らなかった。また、別の光細胞操作手段として検討したジアリールエテン誘導体(龍谷大学内田欽吾教授提供)について、光細胞毒性を光スイッチングする所見を得た。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

パターン光照射による細胞単層の切断・選択剥離操作は、当初の研究計画では強酸型・弱酸型の両PAGポリマーを組み合わせることで、最終年度までに実現することを想定していたが、弱酸型モノマーが重合阻害性を有することが明らかになり、強酸型PAGポリマーと他のポリマーの組み合わせの検討に切り替えた、その結果、MDCK及びNIH/3T3の細胞単層を処理可能な基材調製・操作条件が見出されるに至った。
上述の通り遅れていた弱酸型PAGポリマーの開発については、適当な保護基を用いることで重合阻害の問題を克服し、ようやくいくつかの導入率のPMMAを合成、これを用いた細胞の脱着制御には至っていないものの、顕著な光応答水和性を示す条件が見出され、光構造変化に伴う弱酸発生が細胞に全くダメージを与えないことも確認された。
さらに、強酸型PAGポリマー層上に形成された架橋ハイドロゲル層の剥離を光照射によって誘起するという、当初想定していなかった知見を得ることが出来、精密な細胞パターニングのほか、これまでにないゲル構造体を形成する新手法としての応用が示唆されるに至っている。また、当初の計画で想定してなかった光細胞操作手段として検討したいくつかのジアリールエテン誘導体について、2種類の構造から、それぞれ異なるメカニズムで光細胞毒性を光スイッチングする所見を得た。

今後の研究の推進方策

当初の最終目標としていたパターン光照射による細胞単層の切断・選択剥離操作が、強酸型PAGポリマーのみを用いて実証されるに至ったが、特定の細胞種に限定されていること、酸によるダメージの懸念など、若干の課題も残されている。細胞へのダメージ低減を意図して検討した弱酸型PAGポリマーは、初年度の段階で開発の難航が示唆されたが、適当な保護基を用いることで問題を克服することが出来た。このポリマーはこれまで用いてきた強酸型とは異なり、酸による細胞のダメージがない上、低分子成分を発生しない新規のポリマー材料であり、PMMA主鎖のラインナップについては、細胞接着の光応答は実現されていないものの、この基本構造は、今後バイオ系への更なる応用が期待できる。来年度以降の細胞接着制御の実現に向け、より水和性の主鎖への導入を検討する予定である。
また、新たに見出された架橋ハイドロゲル構造体の新規形成技術については、マイクロパターン照射による光架橋(現像)と光剥離の両方の組み合わせで実現しうる様々な微小構造体の形成を試み、新しい細胞培養系への応用などを検討していく。

次年度使用額が生じた理由

計画時、初年度購入を予定しながら、申請後、本研究開始前に更新したクロマトカラムに相当する額を初年度から繰り越したが、本研究にも使用できる状況にあったため、本年度内の購入を差し控えた。他については年度当初に想定した程度の額を使用、その結果、初年度の繰り越し分程度次年度使用額が生じた。

次年度使用額の使用計画

新たに開発した弱酸型PAGポリマーについて、様々な主鎖との組み合わせ、導入率、脱保護率などを振って、物性解析を行うとともに、細胞操作への応用検討を本格化する。さらに、当初の計画になかった、ハイドロゲルの微小構造体の形成及び応用の検討にも費用を費やすことになるが、繰り越し金の効率的な使用および進捗状況に応じた購入物品の精査により、資金不足による停滞を回避し研究を遂行する。

  • 研究成果

    (19件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 1件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] A diarylethene as the SO2 gas generator upon UV irradiation2015

    • 著者名/発表者名
      Ryuhei Kodama, Kimio Sumaru, Kana Morishita, Toshiyuki Kanamori, Kengo Hyodo, Takashi Kamitanaka, Masakazu Morimoto, Satoshi Yokojima, Shinichiro Nakamura and Kingo Uchida
    • 雑誌名

      Chemical Communications

      巻: 51 ページ: 1736-1738

    • DOI

      10.1039/C4CC07790C

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Swelling degree and shape change of photo- and thermo-response of spirobenzopyran-functionalized porous pNIPAAm hydrogels2014

    • 著者名/発表者名
      Genoveva Filipcsei, Kimio Sumaru, Toshiyuki Takagi, Toshiyuki Kanamori, Miklos Zrinyi
    • 雑誌名

      Journal of Molecular Liquids

      巻: 189 ページ: 63-67

    • DOI

      10.1016/j.molliq.2013.05.020

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Surgical Manipulation Of Cultured Cell Monolayer Using Photo-Acid-Generating Substrate And Micro-Projection System2014

    • 著者名/発表者名
      Kimio Sumaru, Toshiyuki Takagi, Kana Morishita, Taku Satoh, Toshiyuki Kanamori
    • 雑誌名

      μTAS 2014 18th International Conference

      巻: 2014 ページ: 464-466

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 光応答培養基材を用いたヒトiPS細胞の自在プロセシング2015

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 森下 加奈, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      第14回 LS-BT合同研究発表会
    • 発表場所
      つくば
    • 年月日
      2015-02-03
  • [学会発表] PAGポリマー薄層への光照射によるハイドロゲルシートの2.5次元構造制御2015

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      第26回高分子ゲル研究討論会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2015-01-20
  • [学会発表] ヒトiPS細胞の光自在プロセシング2015

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 森下 加奈, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      シンポジウム:細胞アッセイ技術の現状と将来
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2015-01-13
  • [学会発表] PAG-Functionalized Culture Surface Enabling Photo-Induced Cutting and Detachment of Cell Monolayer2014

    • 著者名/発表者名
      Kimio Sumaru, Toshiyuki Takagi, Kana Morishita, Taku Satoh, Toshiyuki Kanamori
    • 学会等名
      第24回日本MRS年次大会
    • 発表場所
      横浜
    • 年月日
      2014-12-12
  • [学会発表] ソフトでウェットな光応答ポリマー材料~アクチュエータから細胞操作まで~2014

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄
    • 学会等名
      神奈川大学化学教室講演会
    • 発表場所
      横浜
    • 年月日
      2014-12-08
    • 招待講演
  • [学会発表] Photo-induced cutting and detachment of cultured cell monolayer on PAG-polymer-functionalized surface2014

    • 著者名/発表者名
      Kimio Sumaru, Toshiyuki Takagi, Kana Morishita, Taku Satoh, Toshiyuki Kanamori
    • 学会等名
      IPC2014(The 10th SPSJ International Polymer Conference)
    • 発表場所
      つくば
    • 年月日
      2014-12-03
  • [学会発表] 架橋及び膨潤剥離の光制御によるハイドロゲル膜の2.5次元構造形成2014

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      膜シンポジウム2014
    • 発表場所
      神戸
    • 年月日
      2014-11-27
  • [学会発表] Photoresponsive hydrogels -Reversible or irreversible-2014

    • 著者名/発表者名
      Kimio Sumaru, Taku Satoh, Toshiyuki Takagi, Shinji Sugiura, Toshiyuki Kanamori
    • 学会等名
      PN&G2014
    • 発表場所
      Tokyo
    • 年月日
      2014-11-14
  • [学会発表] Surgical Manipulation Of Cultured Cell Monolayer Using Photo-Acid-Generating Substrate And Micro-Projection System2014

    • 著者名/発表者名
      Kimio Sumaru, Toshiyuki Takagi, Kana Morishita, Taku Satoh, Toshiyuki Kanamori
    • 学会等名
      MicroTAS 2014 Conference
    • 発表場所
      San Antonio
    • 年月日
      2014-10-27
  • [学会発表] PAGポリマー薄層上で光制御されるハイドロゲルシートの2.5次元構造2014

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      第63回高分子討論会
    • 発表場所
      長崎
    • 年月日
      2014-09-24
  • [学会発表] PAGポリマー担持基材を用いた培養細胞単層の光切断・選択剥離2014

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 森下 加奈, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      第43回医用高分子シンポジウム
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2014-07-29
  • [学会発表] 培養細胞単層の光切断・選択剥離を実現するPAGポリマー担持基材2014

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 森下 加奈, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      第63回高分子学会年次大会
    • 発表場所
      名古屋
    • 年月日
      2014-05-29
  • [学会発表] 高精度アッセイ系の実現に向けた光細胞プロセシング ~細胞を並べる・切り出す・選り分ける~2014

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 森下 加奈, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      第21回HAB研究機構学術年会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2014-05-16
  • [学会発表] PAGポリマー薄膜担持基材を用いた培養細胞単層の光切断・選択剥離2014

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 森下 加奈, 高木 俊之, 佐藤 琢, 金森 敏幸
    • 学会等名
      日本膜学会36年会
    • 発表場所
      東京
    • 年月日
      2014-05-12
  • [図書] ゲルテクノロジーハンドブック2014

    • 著者名/発表者名
      須丸 公雄, 高木 俊之, 杉浦 慎治, 金森 敏幸ほか
    • 総ページ数
      835
    • 出版者
      NTS
  • [図書] Soft Actuators: Materials, Modeling, Applications, and Future Perspectives2014

    • 著者名/発表者名
      Kimio Sumaru, Toshiyuki Takagi, Shinji Sugiura, Toshiyuki Kanamori, etc.
    • 総ページ数
      507
    • 出版者
      Springer

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公開日: 2016-06-01  

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