研究課題/領域番号 |
25282153
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
蜂屋 弘之 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (90156349)
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研究分担者 |
平田 慎之介 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (80550970)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 医用超音波 / 定量診断 / 組織鑑別診断 / びまん性肝疾患 / 振幅確率密度分布 / レイリー分布 / 肝炎 |
研究実績の概要 |
年間数万人が死亡する肝疾患は我が国の医療分野における重要な対象である。本研究の目的は,線維化を伴うびまん性肝疾患を対象に,超音波診断装置によって得られるエコー信号を用いて定量的な解析手法を開発し,臨床的に十分なロバスト性を持つ慢性肝疾患の非侵襲的線維化診断が可能な実用システムを構築することである。そのため,1. 病変組織の組織構造変化と超音波エコー信号のモデル化 ,2. 組織変化モデルを用いた臨床超音波画像の理解,3. 超音波組織変化モデルに基づく慢性肝疾患の線維化定量診断手法の検討,を行っている。 平成26年度は,前年度までに開発した,病変による生体組織変化と超音波エコー信号のモデルの臨床的な問題点を検討した。 肝臓の超音波画像は,散乱体が高密度に均質に分散しているので,スペックルパターンと呼ばれる斑紋状の特徴的な画像となり,病変の進行とともにこのパターンが変化する。本年度,肝炎や肝硬変などのような線維化が肝臓全体に進行するびまん性肝疾患では,「正常組織+線維組織+低エコー組織」に対応する複数のレイリー分布を組み合わせるマルチレイリーモデルを用いることで,臨床データの超音波反射信号の振幅分布を極めてよく表現できることを示した。また,このモデルを用いることで,超音波画像を線維確率画像に変換する手法を提案した。 多くの臨床データを用いて,本手法の安定性を評価した。マルチレイリーモデルは,想定された組織から生体組織が構成されていると,初期病変でも安定に線維化の程度を定量化できるが,血管壁のような非スペックル組織が混在していると,線維組織の抽出精度が劣化する場合があることを示された。そこで,このような非スペックル成分を安定に除外する方法を考案し,シミュレーションと超音波臨床画像で検討を進めた。その結果,非スペックル成分を安定に除外して,病変の定量化を行うことができることを示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超音波臨床画像で,線維化の程度を定量化する手法の安定性について系統的に検討することが26年度の目標であったが,肝臓組織が病変により変化していくときの臨床画像の特徴を明確に表現できるモデルを呈示することができた。また,臨床画像中に特定の成分があると精度が低下することを明らかにすることができ,さらに,その不安定成分を除去する手法を開発することができ,当初の目標を十分達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は,組織変化を示すマルチレイリーモデルを用いた臨床超音波画像の理解を深め,臨床的な実用システムに組み上げる。 病変の組織構造の変化を表すシミュレーション画像と臨床画像的に得られた画像を用いた定量化手法の性能評価を系統的に行い,マルチレイリーモデルの特徴量の変化について検討する。生体組織が病変により変化していく様子をシミュレーションする計算モデルを利用して,慢性肝疾患の組織構造の変化と画像中に含まれる情報の比較を系統的に行う。この検討結果を,逆問題としての定量診断手法確立のための基礎データとする。 この検討結果を基に,超音波画像の理解に基づく定量診断手法の高度化を行う。すでに,超音波画像から,臨床画像から生体組織の音響構造変化に対応する確率値を定量的に求める逆問題について基本システムはできているが,逆問題が不安定になる状況を検討し,ロバストな定量診断手法の確立を行う。 臨床画像から定量的な情報を求める方法について検討から,正常,軽度,重度の臨床超音波画像から線維化部分を抽出結果が,生検による組織検査の結果と良く一致することが示されている。しかし,このような処理を,軽度の病変でも安定に行うための手法については未検討な部分が多いので,これまで検討している手法の検討をさらに進め,高度化した計算機シミュレーションにより得られた進行するさまざまな病変の各段階での超音波画像に適応できる頑健な処理手法の完成を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた超音波実験システムは,年とともに最新の機能が増強されており,現在の利用に対応した仕様に最適化することにより,今後の拡張が容易になり,予算を有効に活用できることがわかった。そのため,現時点では,システム購入の価格を抑えることができ,次年度使用額が生じた。この予算は,平成27年度の計画に対応した本システムの拡張に用いる予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の研究計画に従い,臨床データの処理に適合した,実験システムの拡張を行う予定で,その拡張のために次年度使用額を利用する。
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