研究概要 |
肩こりや腰痛などの筋・筋膜性疼痛や線維筋痛症は慢性難治性であり、医学的・社会的に重要度が高く、その発症や増悪にはストレスが深く関わるが、メカニズムは不明な点が多い。本年度はその発祥や増悪にストレスが強く関与すると考えられる線維筋痛症の動物モデルを用い、末梢神経・脊髄機構の一端を明らかにし、論文投稿中である。具体的には、1)末梢神経レベルでは機械感受性C線維侵害受容器の割合が有意に低下した一方で、残存したと考えられる機械感受性C線維侵害受容器の機械反応が有意に増大した。このような機械感受性の“逆説的な”変化は、加齢や糖尿病性神経障害でも観察され、共通した末梢神経機構の存在が示唆された。2)後根神経節において、痛みや機械受容、また活動電位の発生・伝導に関わるイオンチャネル(ASIC1-3, Nav1.7-1.9, P2X3, Piezo1-2, TRPA1, TRPV1,2,4)のmRNAを調べたところ、複数の疼痛モデルの機械痛覚過敏に関与が認められる酸感受性イオンチャネルASIC3の有意な発現上昇がみられた。3)脊髄後角ではミクログリアのサイズや数、また活性化型ミクログリアの割合が有意に増加し、その変化は侵害受容と関連の深い後角表層(I-II層)でより顕著であった。このようなミクログリアの活性化は脊髄後角ニューロンの応答を亢進し、中枢性感作を引き起こし、痛覚過敏の病態に寄与する可能性が示唆された。 また、遅発性筋痛モデルにおいて、その機械痛覚過敏に極めて重要な役割を果たす神経成長因子のmRNA発現が、筋だけでなく、筋膜組織においても観察された。このことは筋・筋膜性疼痛において、筋だけでなく、筋膜組織も痛みの発生源として重要である可能性を示していると考えられた。
|