肩こりや腰痛、また、近年注目されている線維筋痛症は筋・筋膜の痛みを主症状とする慢性難治性疾患である。これらの痛みは頻度が高く、加齢とともに増加するため、医学的のみならず、社会的にも重要度が高い。その発症や増悪にはストレスが深く関わるとされるが、ストレス誘発性筋・筋膜性疼痛のメカニズムや物質的基盤は十分に解明されていない。昨年度はレセルピン誘発性疼痛モデルを用い、その末梢神経・脊髄機構の一端を明らかにした。本年度は、引き続き同モデルを用い、その物質的基盤の解明を試みた。その結果、グリア細胞由来神経栄養因子の筋内での発現増大が同モデルで確認され、これが機械痛覚過敏の原因物質その末梢神経機構に関わる可能性が示唆された。 また、他のストレス誘発性筋・筋膜性疼痛モデルとして、繰り返し寒冷ストレスモデルを用い、その機械痛覚過敏に骨格筋C線維の機械反応増大が関わることを明らかにした。現在、その原因因子の同定を試みている。 さらに、酸感受性イオンチャネルであるASIC3に着目し、運動誘発性筋・筋膜性疼痛(DOMS)モデルを用い、その末梢神経機構の解明を試みた。選択的ASIC3阻害剤であるAPETx2はDOMSモデルの機械痛覚過敏を減弱させた。また、選択的ASIC3阻害剤は筋Aδ線維、およびC線維の機械反応を有意に減弱させることがわかった。以上より、運動誘発性筋・筋膜性疼痛の機械痛覚過敏にはASIC3を介した末梢神経機構が存在することが明らかとなった。 これらの結果は筋・筋膜性疼痛の適切な治療に有用であると考えられる。
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